成り行き-5
「あ、ごめん」
「別に」
多分、驚いた顔してる……今まで嫌がった事なんて無かったんだもん。
所在無さげにウロウロしている亨の手の気配。
やがて諦めたように動きを止めた。
う……何か意地悪したみたい。
しかし、私の気鬱は少しの間だけのものだった。
暫くすると再び亨の手が髪を弄りだしたのだ。
「んもぅっ何なのよ?」
つい、苛ついた声で抗議してしまう。
「うわっごめん。無意識、無意識……詩緒姉ちゃんの髪、好きなんだよな」
「へ?」
「いや……詩緒姉のって長くて綺麗だからつい」
亨の言葉にドキンと胸が高鳴った。
いやいや、髪の事だから……とは言え、褒められて悪い気はしない。
「しょうがないわね……特別に許すわよ」
「ははー、ありがたき幸せにございます」
冗談っぽく答えた亨は、遠慮なく髪を弄る。
まあ、良いか……好きなようにさせておこう……私だってこれは嫌いじゃないんだから。
その後はまた2人して映画に集中していた。
「ああ、面白かったあ」
俳優はカッコ良いし、アクションシーンは迫力あったし満足満足。
ぐーんと伸びをして感想を言う私。
「メイキング見る?」
「そこまではいいや」
私の答えに亨はそっか、と返事をしてDVDを取り出しケースになおす。
何となく自分の頭に手をやると、何だかごわごわ。
「やだっ絡まってるぅっ!」
亨ったら弄りすぎ……くるくる指に巻いたりするから髪の毛が所々絡まっていた。
「わっごめん」
亨は慌てて洗面所に走り、くしを持って戻って来る。
「座って詩緒姉。梳くから」
「うぅ……丁寧にしてよぉ?」
私はぶつぶつ言いながらも大人しくソファーに座った。
背もたれを挟んで背後に立った亨は私の髪を丁寧に梳いていく。
「気持ち良い〜」
「そりゃ、良かった」
亨は手を動かしつつクスリと笑った。
「何よ?」
「いや、猫みたいだと思ってさ。ゴロゴロ喉鳴ってそう」
さっき私が思った事と同じ事を亨が言う。
顔を仰向けて亨を見ると、ん?と首を傾げて見下ろしてきた。
いつもボサボサの髪は風呂上がりの為、掻き上げられてすっきり。
分厚い眼鏡越しに亨の優しい目が見える。
キスしたいな。
ふとそんな考えが頭に浮かぶ。
そんなにお酒飲んだかなあ、とぽけーっと考えていたら視界が遮られた。
顔にかかってるのは亨の髪、視界を遮っているのは亨の顔。
亨は逆さまのまま、私の額に唇を落としているのだ。