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若き亀やん、再び!(シリーズ3麻雀編)
【コメディ その他小説】

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作戦会議-1

誰も何も言わないまま、しばらくフリーズ状態でオクレ社長が出て行ったドアを見つめていた。

「オ、オクレのオッサン、今度こそ帰りよったんやろな?」松原が引きつりながらポツリと言った。

「ちょっと待て、見てみるわ」オレはそう言いながら恐る恐るドアに近づき、そうっと廊下の様子を伺った。

「ふ〜、どうやら行ったみたいや。しかし、居っても居らんでも鬱陶しいオッサンやな」オレの言葉を聞いて、松原も岸和田も心なしかホッと表情をしとる。幾らチンケなオッサンでも『社長』の肩書には多少のオーラが有るんかもしれん。まあ、ホンの少しだけやと思うけどな。

オクレ社長はオレらにとっては鬱陶しいだけやけど、支配人にとっては心強い味方。それが居らんようになったからには、支配人には多少の打撃のはずや。

「支配人さん、頼りの社長さん帰ったから、さっきみたいな調子ではいきまへんで!」と軽いジャブで追い打ちを掛けた。

しかしその支配人は『哭きの龍』のスタイルのまま、何も言わずどんよりした目でこちらを見返しているだけやった。

うわ〜、怖い目で見てはる〜、アカン、こいつの正体が全く掴めん。まだ変なスイッチが入ったままや…

ハッ!アカンアカン!気弱になったら勝負は負けや!一瞬気弱になったオレやけど気を取り直した。

「ま、まあエエ、うるさい外野が居らんようになったから続きしようか」

そして仕切り直しをするため、新たに場所を決め直した。そして今日何回目かの半荘がオレの親で始まった。

これは神の啓示や!この出親がターニングポイントや!この半荘こそオレのモンにするんや。その鍵は支配人の表情を見る事や。オレの研ぎ澄まされた感性がそう騒ぐ。配牌はまあまあ良かった。しかし相変わらずツモが悪い。

一方支配人の方はというと、オクレ社長が居らんようになった影響なのか、さっきまでの早いテンパイも無く、表情も変えずにしばらくは淡々とツモを繰り返していた。

しかし、それは突然に現れた。オレが何度目かの無駄ヅモを嘆きながらツモ切りをした後、下家の支配人がツモった時の事やった。突然支配人はなんとも言えない苦痛の表情を浮かべよったんや。心なしかさっきより険しい感じに。

これや!これがどう言う意味か考えるんや!支配人はツモった牌を手牌の中に入れ、苦しい表情のまま不要牌を河へ捨てた。次の松原の順番の時もその表情は続いたまま。

そして能天気な岸和田のツモ順。こいつは支配人の変化に気付かず、「リーチ〜」と能天気に言った。

すると、支配人は岸和田のリーチ牌を見て、おもむろに手牌を倒した。

「それや!大三元、役満(36000点)」

「ゲ―――――!いつの間にテンパイしてたんや!全然気付けへんかったでぇ」

今やがな。支配人の表情の変化に気付かんボケのお前が悪いんや。しゃーけど役に立ったぞ岸和田。アレはテンパイのサインなんや。支配人がその手を崩した途端、苦しい表情が治まり、再び『哭きの龍』に戻った。

オレの灰色の脳細胞が目まぐるしく働きだした。支配人の苦しそうな表情、それも険しさが増している、伝説のバイニン『坊やタツ』の事、麻雀を始める前に廊下で松原が言った言葉、それらがオレの脳内をグルグルと駆け巡る。

『チ〜ン!』オレの脳内で徐に鐘が鳴った。そうかそうやったんか!オレは唐突に全てを理解をした。オレはそれを確かめるべく支配人に有る事を聞いた。

「支配人さん、チョット聞くけど支配人さんのオヤジさんの名前は何て言うんでっか?」

「ワシのオヤジ?それがどうしたんや?」

「いや〜、親子二代の麻雀の天才に興味が沸いてきたんですわ。若しかしたら市の郷土史に名前が載ってるかもしれんし」

「ホンマかいな。まあエエわ、減るもんや無いしな。オヤジの名は『西除川弘』や」

連チャンで機嫌の良い支配人は素直に教えてくれた。

「えっ?『弘』?じゃあ『坊やタツ』って別人かいな?」

それを聞いた松原が素っ頓狂な声を出した。

「ま、まあエエやんか、ワシのオヤジの名前なんて」

支配人は松原の猜疑心の目を見て急にいつもの気弱な調子に戻った。これもオクレ社長が居らん影響が出てきた証拠や。

やっぱりや!オレの思った通りで間違いあらへん!これは若しかしたら若しかかするど―――。それにはチョット打ち合わせが必要やな。



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