lost title-4
「あ、『観察日記』の新作でてんじゃん!いやー、近頃見てなかったからなー」
『観察日記』、暇な時によく読み返したりしてたし、新作が出るのを少しは楽しみにしていた。早速、読むことに。
内容は今までの作品よりも一層、衝撃的だった。
少年は人殺しをやめた。
何と驚き、頭を丸めて仏門に下った。
そして生きる楽しさ、素晴らしさを学んで、『観察日記』は完結した。
「はぁ?」
なんじゃこりゃ?
おいおい、おいおいおいおいおいおい、こんな終わり方、有りなんすか?
ざくり
地面を踏む音が聞こえた。
自分自身のものじゃない。
「人が来た」
ケータイを閉じる。『観察日記』のアイツはなんだかよく分からない終わり方をしたけど、まあ、それは後で考えるとしよう。
今は、狩りに集中しないと。
久しぶりの肉が食えるぞ。
獲物は近づいてきてる。
足音からすれば、あと20メートル。
まだだ。
もうちょっと近づいてからだ。
足音からすれば、あと10メートル。
「あれ?」
おかしい。
まだ自分はのこぎりを振り上げてもいない。
なのに
「血の…臭い」
おかしい。
獲物は自らの意思でこちらに歩いてきている。
もう見える範囲にいる。
もう自分が持っている、斧のようなのこぎりも見えているはずだ。
なのに、逃げようともしない。
もう見える範囲にいる。
こちらも、相手の姿は見えている。
相手は台所用の包丁を持っていて、その上、血まみれだった。
逃げろ。と本能が叫んだ。
「ねえ、君」
獲物は目の前にいる。
「こいつ、誰か…」
獲物は自分の顔を指差した。
「ああああああああああああああああああああああ!!」
のこぎりを思いっきり振り切った。
なのに、血が吹き出ていたのは、自分の胸だった。
どぶ、と口からも血が溢れてきた。
食われる、としか思えなかった。
いつの間にか倒れていて、ああ、食われちまうんだな、と覚悟をした。
でも相手は動こうとしない。それを見て、もう確実に死ぬと分かっているのに、食われることは無い、と安心した。
と同時に疑問に思った。
なぜ食おうとしないのだろう、こいつは?
もしかしたら、ベジタリアンのなのかも、などと死の淵にいる人間などには、相応しくないことを思いつき、せっかくなので、聞いてみた。
「てめえ、なにもんだ?」
と。
もちろん、口からは血が出ていたのでうまく言えてなかったのだが、相手にはどうやら無事伝わったようで、ちゃんと返事を返してくれた。
「それを知りたいんだよ」
そう言って殺人鬼は食人家の頭を渾身の力で切り裂いた。
了