有名人の息子-1
オクレ社長はさも当然として冷ややかな目でオレを見やがる。むかつく〜〜〜。しかしセコイオッサンやで。しゃーけどこのオッサンに金のことで説得する事は不可能や。ここで食い下がったら余計に変な事を言い出しかねへんど。1人アタマ7千5百円か〜?しゃーないなあ。
「解りました。でもさすが社長です、儲ける人は違いますね」
セコさがな。
「そうやろそうやろ、ワシってちょっと違うやろ」
オクレ社長は喜んだ。アホか?解っとらへん。
「ところでオクレ、イ、イヤ社長」
「オクレやと!それはワシの事かい!」
「うっ、ちゃいますちゃいます。オクレオクレ、そうそう『遅れたら大変』って言ったんですよ」
全く聞く耳持たんオッサンやけど、困ったことに悪口はスンナリ入りよるがな。
「何がや」
「支配人さんの介抱ですがな」
「お―――、可哀想な西ちゃん、西ちゃん西ちゃん大丈夫か〜」
「アホか」
「何か言うたか?」
「い、いえ!社長が介抱してくれて『あ〜、ホッとした』って言うたんです。それよりも早く介抱せんと」
ホンマ悪口限定で耳がエエやっちゃで…
「そ、そうやな。西ちゃん西ちゃん大丈夫か?」
オクレ社長が支配人の体に触れた途端、ビクッと体を震わせて支配人は目を覚ました。ホンマは早うに気ぃついてたんのに、様子を伺ってたんやろな。
「うっ、社長、ご、誤解です。私はこいつらに無理矢理麻雀をさせらたんです」
「解ってる解ってる可哀想な西ちゃんや」
オクレ社長はそう言ってちっちゃい目をさらに細めて心配そうな顔をした。が、一瞬後に態度をガラリと急変させた。
「ところで、誰が勝ったんや?」
金の事やったらそれが誰の金であっても気になるようや。
「それが社長、私の1人勝ちです」
「ホンマか!それはエエがな〜、で、何ぼ?」
「ヒヒヒ、それが東1局で5万円です」
「うほっ!それはステキやがな」
全然ステキちゃうがな…
「そうなんですけど、この子が負け分を誤魔化そうとするんですわ」
「な〜に〜、金を誤魔化すやと〜〜〜」
オクレ社長はまたもやオレを睨んだ。何故かこの時ばかりは今まで以上に迫力が有った。さすが守銭奴や、
「うっ、言いがかりです。オレも勝負師やし、そんな誤魔化すなんて…」
情けないことにオクレ社長の迫力にタジタジしてしもたがな。
「ホンマやな、そしたら早く払わんかいな」
5万円も払えるかいな。困ったなあ、どう誤魔化したろかいな。う〜〜〜ん、んっ!そや!簡単なこっちゃがな。
「社長、泊り料金支払うんやから朝の10時まで部屋使えるでしょ。しゃーからこの部屋で勝負の続きさせてもらえませんか」
こうなったら、この支配人からふんだくるしかないがな。大体こんな気の弱いオッサンにオレが負けるワケないからな。
その言葉を聞いたオクレ社長と支配人は顔を見合わせて、ニッタ〜〜〜と笑いよった。
うっわ、気っしょ―――――!
「ヒヒヒ、竹林くん。キミは自分が何を言ってるのか解らないようだね。けど、一旦口にしたから撤回できひんで。ヒヒヒ」
オクレ社長が不気味な笑顔を向けた。何やこの自信アリアリの気っしょい微笑みは?
「な、何がです」
この際、竹林って呼ばれたことはどうでもエエ。
「キミらも麻雀をするなら聞いたこと有るやろ。戦後日本に彗星のごとく現れた伝説のバイニン『坊や』のことを!」
知ってるがな、その伝説のバイニンを知らん雀師は居らんわい。また何を言い出すんやこのオッサンは?
「聞いて驚け、西ちゃんはな―――!その『坊や』の実の息子やで―――――!」
オクレ社長は誇らしげMAXで怒鳴った。
が―――――ん!
「ま、まさか…」
オレは驚きの余り絶句してしまった。
「し、支配人さん、ホンマでっか?彼自身がバイニン時代のことを綴った『麻雀○浪記』は今だにベストセラーでっせ。ボク大ファンですねん!まさか支配人さんが『坊や哲』いや、阿佐○哲也先生の息子さんやとは知りませんでした」
今までシュン太郎やった岸和田が興奮気味に言った。何ちゅうミーハーなヤツや!
「ん?『坊や哲』?ちゃうちゃう、アレはこっちを真似したニセモンや!関東で『坊や』を騙ってたまたまウケただけやで。こっちが本家本元の『坊や』や。その名もチョ―有名な『坊やタツ』!知らんか?西ちゃんもよう間違われて困ってるんや」
オクレ社長は手をヒラヒラさせながら迷惑顔で言った。
「坊やタツ〜〜〜!」
アカン、メッチャウソ臭い…。