狂気の時間帯-2
げげげげげ、こいつさっきの支配人と同じ目ぇしとるがな、殺人者の目ぇや。今日はこんなんばっかりや、ホンマ何ちゅう日なんや…
「しゃ、社長!正気に戻ってください。麻雀ですマ・ア・ジ・ャ・ン!解りますか?社長の大事な支配人の1人勝ちですねんて!解りますか?ひ・と・り・が・ち」
「ヒ、ヒヒヒ、『支配人の1人立ち』やと…ヒヒヒ、西ちゃんだけ立ったやと…ヒヒ、お、お前どんな技を使たんや…ヒ、ヒヒ」
ひ、ひとり立ち〜〜〜!どんな鼓膜しとんねん!
「もう、堪忍してくれ〜〜〜〜〜!」
オレはオクレ社長の常軌を逸したその発想に呆れかえる余りに、この状況にも関わらず頭を抱えてしまった。同じ人類として恥ずかしい〜〜〜!
オクレ社長はその一瞬の隙を見逃さなかった。
「ヒ〜ヒヒヒヒ」
今一度狂気の笑い声を発してオレのナニに向かって気持ち悪い口を広げた!
『ガブッ!』
「ぎゃっ!イタ!タタタタタ、アタ―――――!」
今夜何回目かの絶叫が212号室に響き渡った。
若き亀やん、おしまい。
ではない。この時のオレのナニがどうなったのかを説明しなくてはなるまい。覚えているだろうか?オレはピンチになればなるほど危機管理能力がパワーアップすることを。
オレは寸でのところで偶然に手に触れた物を掴み、それを気色悪いオクレ社長の口へ突っ込んだ。オクレ社長はオレのナニの替りにそれをガリッっと噛んだのだった。
「硬っ!かった―!歯ぁイッタ―!ペッ、ペッ!なんじゃこりゃ―?歯ぁが欠けたんちゃうか!」
オクレ社長はそう言って口から出した物を手にしてシゲシゲと見た。
こいつの暴走を止めるには欲望を刺激することと、極度に自分自身を可愛がる本能を刺激することや。この場合、自分の歯が欠けそうな程の衝撃がこいつの暴走を止めた訳や。オクレ社長の暴走を止めた物は、奇しくもオレが支配人に振り込んだ麻雀牌の『西』だった。そう、さっきオレの背中でゴリッとその存在を主張した牌や。一旦はオレを窮地に落としこめた因念の牌が、今度はオレのピンチを救ったっちゅうこっちゃ。
「麻雀牌やないか?何でこんな物がここに有るんや?」
「しゃーからさっきから言うてるでしょ、支配人さんと一緒にここで麻雀してたって」
「なんやて!この部屋使て麻雀やってたんか?何ではよ言わんのや」
「だから言ったでしょ、支配人さんとナニなんかしてませんって」
さっきから何を聞いとるんや…
「そんなこと聞いてない、ホンマに麻雀してたんか?この部屋で!」
はぁあ?『そんなこと』やてぇ?さっきからその事で修羅場ってたんやんけ!
「はあ、この部屋で麻雀してました」
「4人でか?」
「はい、支配人さんと岸和田とまっつんとオレの4人です」
「ホンマやな、この部屋でやってたんは間違いないんやな?」
何べん聞くんじゃボケ!
「はい、その通りです」
「ほんだら部屋代払てもらおか」
「へっ?」
「4人で部屋使たんやろ?ほんだら部屋代払わなあかんがな」
「え――――!社長、オレら従業員でっせ!そんなん大目に見てくださいよ」
「アホぬかせ!ホンマやったらクビにするところを部屋代で済ましたろ言うてるんや。ワシってムチャクチャ話の解る経営者やないか」
はあぁ、ホンマ、同じ人類と思うのが恥ずかしいほどセコいオッサンやでぇ。
「解りました解りました、払います払います。なんぼでっか?」
ホンマ情けない、オレなんでこんなところで働いてんねやろ?
「泊り料金やから3万円や!」
「へっ?しゃ、社長、ここって212号室でっせ。泊りは確か1万5千円とちゃいました?」
「アホ、この部屋の定員って何人や?」
「えっ?部屋の定員って決まってますのん?」
「当ったり前やないか!どこの世界に一部屋単位で部屋貸すホテルがあるんや、人数単位やがな。でないと、一つの部屋に10人でも20人でも入ってみ、こっちはえらい損やがな」
「と、言う事は?」
「そや!定員2人の所に4人で使たんやから、倍の3万円になるんや」
「セッコ―――――!」