南風之宮にて 3-7
「……!」
続けて起こった大轟音に、エイは思わず耳をふさいだ。
同時に、すさまじい速度で炎が広がった。結界ごしにも見て取れる強烈な爆風に、魔族と周囲の木々が吹き飛ばされる。
大爆発だった。
エイと馬には何の影響もなかった。
そよ風ほどにも感じない。ただ、地面が足下から崩れ出したため、あわてて爆心から離れなければならなかったが。
爆発の収まって白煙のたちこめる一帯で、彼はただ視界が晴れるのを待った。
樹海と、参道へ登るなだらかな坂の一部を含む、見渡せるかぎりの大地が削り取られ、何一つ障害物もなく平らになっていた。
上空からは、円形に巨大な穴が穿たれているのがわかる。
ハヅルは高度を下げながら、爆発の効果を確認した。
百数十体にも及ぼうかという魔族の大軍の大部分は、衝撃波と炎で消し飛んでいる。
しかし視認できただけでも、爆心から遠く離れていた三、四体は取り逃がしていた。すでに結界に入ってしまっていたものも数体はいる。
まあいい。ハヅルは思った。十体やそこらならば、アハトの負担もさほどではないはずだ。
人間のエイが二体も倒せるのだから、彼にも何とかなるだろう。
……何とかしろ、と内心で叱咤しながら、彼女はエイめがけて急降下した。
否。
自ら降下しているというのはあくまでハヅルの強がりであって、実際のところ彼女は完全に高度のコントロールを失っていた。
羽ばたきが追いつかず、向かい風をうけて浮揚するだけの角度を保てなくなっていたのだ。
体が重い。
引きずり込まれるような激しい眠気が彼女を襲う。ハヅルはきりもみ状態で、ひらひらと力なく落下した。
もうろうとする意識の中で彼女にできたのは、翼を広げて落下地点をわずかにずらす程度だった。
すなわち、エイの懐へと。
地上のエイは慌てた。ハヅルの白い体が、ひとひらの雪片のように垂直に舞い落ちてきたからだ。
彼は馬を急かして落下地点に到達し、すれすれで鳥の体を受け止めた。
両手で懐に抱きとめる形になった小さな猛禽は、弱々しくピィと鳴き声をあげると、彼の腕の中で変化した。
突然、瞬きの間に鳥と少女がすり変わって、エイは馬上でバランスを崩しかけた。とっさに手綱をたぐり、ハヅルを落とさぬように抱えなおす。
「は、ハヅル? 大丈夫?」
「ちょっと、疲れた」
彼女はそう呟いたと思うと、ぐったりと彼に身をもたせかけた。
「……ハヅル?」
すう、と腕の中で寝息が聞こえた。
エイは驚いた。ついで、うろたえた。
彼女は王女の護衛で、ツミの一族だが……女の子なのだ。女の子が、これほど無防備に男の腕の中で寝姿をさらすなど、エイの常識ではあってはならないことだった。それもこの非常時に。
寝息が深い。せめてどこか休める場所に落ち着くまではと、よほど起こそうかと思ったエイだったが、いざ肩を揺さぶろうとつかみかけて、躊躇した。
これほど大規模な破壊を引き起こす術を行ったあとだ。
彼はアハトが力を使いすぎて目を回したところを見たことがある。彼女も同じ状態なのだろう。
ほっそりと華奢な体だった。
少し苦しそうな寝顔が痛々しい。
エイは上着を脱いで、彼女をくるみこんだ。
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