忠の時間 -2
忠はしばらく悶々とした後で、ようやく家から離れることにした。セックス以外では車が好きな忠だったので、愛車が出せれば時間の潰しようも色々あったが、今は車庫から車を出すわけにはいかない。仕方なくもう一度自転車に乗って、とりあえず駅まで向かった。
駅前の本屋に行って時間をつぶそうと思ったが、そんなに読みたい本も無い。性欲と車以外は物欲もあまり無いので、ウインドショッピングは苦手だ。オマケに勃起テントで店内をウロウロできなかった。
電車で遠征すればモヤモヤを解消できる店もあるが、美弥子に釘を刺されていたので、変に律儀な忠はそれも出来なかった。それよりも、ことセックス関係に関しての美弥子の嗅覚が凄いので、迂闊に浮気もできない。
同じく電車で遠征して映画でも見ようかと思ったが、比較的早い時間に新司が落ちれば、直ぐに帰れる距離でないとダメだ。
結局忠は、若い頃に何度かやったことのあるパチンコ屋に入って、時間をつぶすことにした。座っていれば勃起も目立たない。それに同じ『チンコ』の文字が入ってるので、今の自分にピッタリだと、勃起したモノに目を向けながら無理に納得させた。
最近の機種は全くわからなかった。小銭を入れる投入口が無く、札を投入するところしかない。見よう見真似で、台の枠の投入口に高額紙幣を投入してから、出てきた玉を打ち出した。
すると、中央の画面が一回回っただけなのに、直ぐに大当たりとなった。さらにそれが終わっても、直ぐに大当たりが繰り返すことが延々と続いた。ワケもわからないまま、引っ切り無しに出てくる玉の対応に追われ、しばらく妄想が膨らまずに済んだので、忠にとってはいい時間の潰し方になったようだ。
結局2時間半の間、休むことなく大当たりが続いたので、出玉を交換すると結構な金額となった。その金を手にした忠はいいことを思いついた。この金で家族で温泉乱交旅行に行く計画を急遽思い付いたのだ。家族風呂での乱交は、よく見るエロビデオの定番だったので、景品交換所でニヤニヤしながらテントを張ってしまう忠だった。
今のパチンコにしてもそうだが、忠のこれまでの人生は幸運の連続だった。元々人並み以上の能力は有るにしても、学生時代には大した勉強もしなくても試験の山が当たったり、大した苦労も無いまま今の会社に就職し、さらに大した苦労も無いまま今では出世の筆頭株だ。
忠も薄々気づいていたが、実はこれらの幸運は美弥子のあげまんのお陰だったのだ。それを実感したのは浮気した時だった。他の女にはめてから、立て続けに不運が訪れた時には『やはり』と思ったほどだった。
目安の18時まで、まだ少し時間がある。パチンコ屋を出た忠は、目の前にある宝くじ売り場が目に止まった。
「その場で100万円か。今日は美弥子と恵子の『2まん』で充分だけどな。うひゃっひゃ」
浮かれて気の大きくなった忠は、生まれて初めてスクラッチの宝くじを10枚購入した。そして売り場のカウンターでコシコシとカードを擦りだした。
この時の忠はまだ気づいて無かった。美弥子のあげまんDNAは娘の恵子にも引き継がれていたことを。
美弥子と恵子のあげまんが、相乗効果を発揮した結果…
「ん?んんんん?えっ、えっ、ええええええええええええええええっ!」
忠は腰を抜かしそうになった。
「お、お客さん、大丈夫ですか?」
宝くじ売り場の女性店員は、ニヤニヤ意味不明の笑みを浮かべながらテントを張る忠を怖々と見ていたが、店先で事件を起こされては堪らないと思い、勇気を振り絞って声を掛けた。
「ひゃ、ひゃ、ひゃくまんえん…ひゃ、ひゃく、まんえん、あた、あた、あたった…」
「えええええっ?ま、まさか!」
これには女性店員もビックリした。
「うおーっ!百まん、百まん、百おまん!うひゃひゃ!温泉乱交旅行じゃなくて、海外乱交旅行になったぞー!飛行機で百まん回セックスしまくるぞ――!」
忠は妄想が膨らみ、思わず店先で叫んだ。
「ひぃ〜〜〜」
女性店員は恐怖のあまり、少し失禁してしまった。