キングサイズのベッドの上で<中編>-3
「な、なんかすごいね?」
「うん…… 中はこんなになってるんだ…………」
驚くほどに静まりかえった窓のない密室。
部屋の中央には大きなベッドがあるだけで、
いかにもそれだけを目的としているのがあからさまに見て取れた。
「…………ね、姉ちゃん?」
「な、なにっ!?」
「俺さ、メッチャ汗かいちゃってるから先にシャワー浴びてきていいかな?」
「あ、ああ…… うんっ ど、どうぞどうぞ!」
いまさら、ここまで来て私は何を恥ずかしがっているのだろう。
やむを得ない事情とは言え、恋人同士がこういう場所に来たのだから、
それはやっぱり、そういう事なんだろうと頭では理解しているのだけれど…………
「あ、その前にっ! 隆、家に電話しとかなきゃっ!!!」
「家? いいよそんなの…………」
「だ、駄目よっ おばさま心配してるだろうからっ」
「つってもなぁ………… 何て言えばいいのか…………」
そう言いながら渋々と家に電話する隆。
案の定、受話器の向こう側では、
随分と激しい剣幕でがなり立てるおばさまの声が漏れ聞こえている。
私はその姿を心配そうに見つめるも、
よもや一触即発の勢いで苛立つ隆を目にしては、思わず携帯を取り上げてしまった。
「も、もしもしおばさま? な、夏樹です!」
「あら? なんだ夏樹ちゃんと一緒だったの?」
「は、はい。すみません、私の不手際で帰りの電車乗り過ごしてしまって…………」
「あらあら〜 そういう事だったのね? いいのいいの、夏樹ちゃんが一緒なら安心だわ!」
「そ、そんな…… ホントすみませんでした」
「いいのよ? それより知らなかったわ〜 それならそうと隆もはっきり言えばいいのに…………」
「え? あ、あの…… おばさま?」
「ウチは夏樹ちゃんならいつでも大歓迎よ? 隆にしっかり既成事実つくって来いって伝えておいて?」
「ちょ…… おばさま何を?」
「あはは、でもまだ子供は駄目だからね? 私まだおばあちゃんなんて呼ばれる歳じゃないんだからっ」
「え? えぇ? こ、子供って…………」
「とにかくウチの子ああ見えて鈍くさいから、しっかり夏樹ちゃんがリードしてあげてね? じゃあねぇ〜」
「あっ! お、おばさま??? もしもし? もし…………」
なんだか話は上手く纏まったものの、大きな勘違いをされたような気がする。
いや、すべてが勘違いだとは言い切れないから困りものだ。
「何? おふくろなんか言ってた?」
「えっ? いや………… き、気をつけて帰っておいでって…………」
「そか、じゃあ俺、先に風呂入ってくるね?」
そう言って腰を上げると、
きょろきょろと物珍しそうに部屋を見渡しながらお風呂場へと移動する隆。
私はおばさまの言葉に動揺しながらも、
息を整え、携帯を取りだしては、今度は自分の母へと断りの電話を掛けた。