パンドラの匣-4
とあるファミレス。この少女は図々しくも本当に付いて来た。
いや、俺は彼女の腕を掴んでしまった段階で、こうなるような気がしていたのだ。
午前中に彼女の方に足が向かなかったのも、あるいはそういう予感があったのかもしれない。
道中、彼女はユイと名乗っていた。俺も、ユウジと名乗らされた。
眠そうなあどけない瞳をして、何かが彼女のペースで進んでいる。
「このファミレス、カップル多くないですか?」
「そうか?」
「そうですよ。一人で来てる人ってほとんどいないみたい。ユウジさん、わたしが一緒でよかったでしょう?」
「俺は、そういうの気にしないんだよ」
店の隅っこの座席に俺とユイが並んで座っている。
ユイが頼んだドリアを口に運ぶと、よほど腹が減っていたのか、幸せそうな顔をしていた。
隣にいるユイを見ると、制服の胸元から彼女の豊かな谷間が僅かに見えてしまっていた。
テーブルの下には、ユイのほんのり小麦色で光沢のある足がスカートから伸びている。
足首はシンプルな白のソックスにスニーカーと、素朴な高校生といった感じだ。
だが、彼女には、何かがあるのだ。何なのかはまだわからないのだが。
「周り見てると、わたしって、結構地味ですよね? さすが、街って感じ」
「まぁな。もうちょっと派手だったら、俺も声かけてたさ」
「ひどいなァ。わたしの学校は、校則厳しくてスカート短くしたりとか、髪染めたりとかは出来なかったんですよ」
出来な”かった”か……。
「ふぅん。ユイは、どこからここにきたんだ?」
「遠くからです。ずーっと遠く……」
ユイは朝見た時のように、眠そうな眼で何かを懐かしむように、どこか遠くを見つめている。
懐かしむべき何かは、既に彼女にとっては過去のものになってしまっているのか。
俺は、それを敢えて問おうとは思わない。
俺は彼女の家族ではないし、警察でもないし、補導員でもない。
偉そうに説教を垂れようなどと、毛頭思わない。
遊べればいいのだ。楽しければいいのだ。細かいことなど、どうでもよかった。
但し、ユイを相手にそれをするのは、どうなのか。危険な気配がした。
ショウコという、あの女から感じた危険さとは、違うベクトルのものだ。
俺がユイから感じている不穏な気配を隠すように、ユイは明るく振舞っている。