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雑踏の片隅で
【その他 官能小説】

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パンドラの匣-2

 午前中に見た少女が、同じ場所で、同じ姿勢で、同じ表情で佇んでいた。
 
 最初に見かけてから、おそらく八時間近く経っている。
 俺はその少女を、遠目に見つめている。
 妙に気になった。その女子高生の瞳には、どこかで見覚えがあるような気がしたのだ。
 紺色のセーラー服、使いふるした黒い学生鞄に、小さめの補助バッグ。
 どこか遠くから高校生が修学旅行にでも来たように見えるが、この街はそんな場所じゃなかった。
 それどころか、こんな場所を制服で夜歩いていたら、今みたいに腕章をした補導員がやってきて――
 チッ、しょうがない奴だな……。

「おい、カズミ! なんだよ、道に迷ったのかよ! ここじゃねぇよ!」
「えっ? 何? 何なんですか、あなた……」
「ライブ見に行きたいって言ってたろ? あっちだよ、あっち! ここは反対側だから」

 俺はその小柄な女子高生の腕を掴んでしまっていた。
 掴んで、強引に補導員の集団から離れるように、歩き出している。
 
「ちょっと、聞いてるんですか? 腕、離していただけませんか?」
「……あのな、お前、もうすぐ補導されるところだったぞ。それでいいのか?」
「えっ?」
「あっちに、腕章つけた連中がいるだろう? お前みたいなのに説教して回ってんだ」

 ある程度離れた所で、俺は彼女の腕を離してやった。
 女子高生は、補導員を遠目に確認して、はっとしたような顔をして俺の顔を見つめた。
 出すぎた真似をしてしまったかもしれない。
 随分、俺らしくない事をしてしまったと、今になって思った。
 だが、立ち尽くす彼女の姿が何か切なくて、自然と俺の体が動き出してしまっていたのだ。
 女子高生は、眠そうな瞳を俺に向けて、どうしていいのか戸惑っている。
 俺は相変わらずの格好をしていた。もしかすると、怖がられているのかもしれない。

「あの……なんか、ありがとう、ございます」 
「……礼を言われるってことは、お前、何か捕まるような事したのか?」
「そんなこと、してませんよ。捕まるようなことなんか、何も……」
「じゃあ、もう帰れよ。こんなとこにいても、ろくな事はない」


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