転調-1
――転調
あたしは、しばらくの間、隊長や周りの人から離れて、ひとりで考えてみることにした。
そう簡単に整理がつくとは思えなかったけど、蝶々さんと話をしたおかげで、胸の奥の方
にわだかまってたこととか、今の時点での自分の気持ちなんかが少しわかったので、あの
晩のあとのような、“ぐちゃぐちゃな感じ”ではなくなってた。
蝶々さんとの話で、いくつかヒントみたいなものはもらったけど、そこからは、やっぱ
り、自力で何とかするしかないんだなって思ったあたしは、自分で言うのもおこがましい
けど、けっこう頑張ってしまった。
あたしは、あんまり、自分のことを友達に相談するということをしたことがない。他人
に相談するっていうのは、あらかじめいくつか選択肢があって、どれにしようか迷ってる
場合にすることで、ホントにどうしていいかわからないときは、結局、自分で考えて答え
を見つけるしかないんだろうなぁと思う。選択肢が浮かぶ程度の悩みだったら、そのとき
の気分でぱぱっと決めてしまう方が、あたしには好みのやり方だった。
まず手始めにやったのは、ノートパソコンに齧りついて、ネットに上がったゲイ関連の
記事を読みあさること。
もちろん、そんなことをしても、隊長個人のことがわかるようになるわけではないんだ
けど、似たような来歴の人のエピソードを探して、その人が、どういう気持ちで周りの人
と接しているのか、また、接しようとしているのか知りたかったから、とにかく昼も夜も
関係なく探しまくって、貪るように読み続けた。
ネットの記事に当たる以外にも、高校生のときから今までのことを、出来るだけ細かく
思い出したり、自分がいったい、最終的に隊長とどうなりたかったのか? とか、隊長を
好きになったときの心の状態ってどんなんだったか? とか、ホントに色々考えて悩みに
悩んだ。
同じようなことを考えている人がいないか、フツウの恋愛関連の記事を探しまくってみ
たりもしたし、これは! と思うような小説や漫画なんかも読んでみたし、思いつくこと
は、とにかく何でもかんでも試してみた。
あまりにも根を詰めたおかげで、すっかり夜更かし体質になってしまった。その習慣は
未だに尾を引いて、現在に至るまで続いている。
やってみて気付いたんだけど、こういう、言ってみれば、常軌を逸した積極行動は、ど
うやら、あたしの本性から来てるみたいだ。悩み事を抱えている状態っていうのが、心底
からイヤみたいなんだな、これが。
だけど、周りから見たら、すごくヘンな様子だったと思う。だって、失恋したすぐ後は
心に受けた傷を癒すのに専念して、気分転換でもしながら、とにかく時間が経つのを大人
しく待つのがフツウなわけじゃない? それを、わざわざ、自分から傷をえぐり返すよう
なことに一所懸命とり組んでるわけだからさ、端から冷静に見れば、相当ヘンな感じだっ
たんじゃないかな?
ま、そういう努力のカイがあって、だいたい1カ月くらいで、一応は、頭の中の整理が
ついてきていたんだけど、今ひとつ釈然としないと言うか何と言うか、ジグソーパズルの
最後の1ピースが見つからないような感じがあって、それが、いったい何なのか、言葉に
出来ないもどかしさが、心の奥の方にずっと残ったままになってた。
ナオくんに出会ったのは、ちょうど、そんなことを考えている時期だった。