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no title
【サイコ その他小説】

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続no title-1

あれ以来、いくつかの人間を殺したりした。食ったりもした。
不思議でも何でもないが抵抗はなかった。
『観察日記』の少年が壊れていいくにつれて、自分も堕ちていくのがわかった。
堕落は快感だった。
快楽は妙覚だった。
冴えて見える。世の中の核心がはっきりと、一点の曇りなく、見える。
それは、無意味で、無価値で、不必要なものだと悟った。
皆、悩み、喜び、悲しみ、怒りながら生きている。
ただ、その理由が下らなすぎた。
そんな下らない事で左右される程度の人生しか持ちあわせていない人間なんて、大した意味もないだろう。
生きる意味が無いだろう。
楽しかった。
無駄を削除するのは、プチプチを潰す時のように、楽しい。
だが、長くは続かなかった。
『観察日記』の少年が、改心したのだ。
少年は人殺しをやめた。何と驚き、頭を丸めて仏門に下った。
そして生きる楽しさ、素晴らしさを学んで、『観察日記』は完結した。
「え?」
困ってしまった、なんてもんじゃない。
だったら、俺はどうすればいいのだ。
俺も仏門に下れと?
俺?
俺は俺の事を俺と読んでいたか?
私だったっけ?
え?
俺?私?
おいおい、自分の性別を忘れる奴があるか。
自分?
自分て、誰だっけ?
え?
鏡を覗きこむ。
あー、そうだ。これが自分だ。


誰だっけ、こいつ。
は、何?


自分が、わからない?
自分を、知らない?
ヤバいんじゃ、ないか?
「誰だ俺は。誰だ私は。誰だ俺は。誰だ私は。誰だ俺は。誰だ私は。誰だ俺は。誰だ私は。誰だ俺は」


自分は、どこにいる?
「お母さん!」


急いで階段を降りて、キッチンにいる母親に叫びかける。
「誰だっけ、こいつ!?」自分を指差して問掛ける。だが、返事はない。
当たり前だ。キッチンに居る母親は、既に死んでいる。自分で殺したのをすっかり忘れていた。
「あー、もうっ!」
殺すんじゃなかった。心の中でも後悔する。
母親の死体を足で押し退けてキッチン台の中から一番小さい包丁を取り出した。それをベルトに挟んで家を飛び出す。
外は既に暗く、人気も無かった。
適当に走り回る。
2・3分くらい走って人を見付けた。紺色のジャージを着た自分と同じ位の歳の男子。
彼が背後から走り迫る足音に気付いたのだろう。ん?と顔をこちらの方に向けた。
0,3秒後彼の表情は苦痛と恐怖に変わる。
「こいつ、誰か知らない?」
自分を指差して尋ねる。彼は包丁で刺された内股(大腿動脈を狙った)を押さえて「あがゃ、がは!あうあ!」と訳の分からない事を言っている。
「ねぇ!」
もう少し強めに
「誰か知らない?こいつ!」
と尋ねた。
そして彼はやっと、千切らんとばかりに首を横に振って、自分の意思表示をした。
次の瞬間、首から鮮血を吹き出して絶命した。
「ったく!誰なんだよ!お前は!」
お前、とは勿論自分の事である。
焦った。
不安だけがただただ募っていく。
「ねえ、そこのおじさん!」
今度は会社帰りのサラリーマンを見付けた。
「こいつ知らない!?」
言葉使いが自然、荒くなる。
文字通り、正体不明の不安感のせいだ。
大分毛の抜けた頭をぼりぼり掻いておじさんは
「はあん?」
と言った。
その直後
「おわっ、おわああ!」と叫びながら、腹からはみ出た臓器を必死に押し戻そうとしていた。
とにかく、とにかく人を求めた。誰か一人くらい自分の事を知っている奴がいるだろう。
「ヤバイよ。ヤバイよ。ヤバイよ。ヤバイよ。ヤバイよ」
とにかく、とにかく走った。人に出会うたびに自分の事を尋ねた。
1時間ほど続けたが、自分を知っている奴は見付からない。

自分で自分が分からない。

他人も自分が分からない。
誰も、自分のことを知らない。
世界の全てから、置いてけぼりをくらってしまった感じ。
世界の全てから自分を否定されてしまった感じ。

そんな人間に、生きる価値は、あるのか?
「くそっ!呑気に生きやがって!」


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