回想Cパート-5
「ユイちゃん、隊長のこと、薄情なヤツだと思ってる?」
隊長が、とてもやさしい人だっていうのは、わかっていた。それに、あたしを女性とし
て好きになることがないっていうのは、情が薄いからじゃないってことも頭では理解して
いた。ただ、宙に浮いて行き場を失った隊長への想いを、どうするのがいいのかがわから
なくて、つい、隊長のことを責めてしまうことがあった。
もうちょっと、せめて、あたしがもう少し大人になるまで、夢を見せておいてくれても
ヨカッタんじゃない? お子様のあたしなんかより、今の恋人の方が大切なんだよね?
駄目だってあんなにハッキリ言うことないじゃない? あたしが生まれて初めて自分から
好きになった人なんだよ、それなのに、それなのに…。
あたしは、そのときまで、ずっと胸の中にわだかまっていた感情を、洗いざらい吐き出
した。いつの間にか、両目から大粒の涙がこぼれ落ちていた。
「そうだよね、つらいよね、理屈じゃないもんね…」
蝶々さんは、あたしの隣の席まで来て、肩を抱いて頭を撫でてくれた。
「アイツに、このタイミングでカミングアウトを勧めたのはあたしだから、そのことでは
あたしを怨んでね。でも、アイツは、あたしに言われたから、仕方なく、自分のことを話
したわけじゃない。ユイちゃんとの関わりが大事だと思ってるからこそ、今、知ってもら
わなきゃいけないって考えたんじゃないかな?」
あたしは、こっくりと頷いた。
「ユイちゃんには酷な話だけど、アイツが今、彼氏のことを大切に思ってるのは確かよね。
ここ半年くらいでウチの音、随分と変わったけど、それは、やっぱり、あの彼氏の影響だ
と思う。まぁ、それだけで推し量るのは無理があるけど、それだけ、結びつきが強いって
ことは言えるんじゃないかな。でも、アイツが、彼氏のことをユイちゃんに話したのは、
当てつけの意味じゃなくて、自分のことで隠し事をするのがイヤだったからだと思うよ」
そうだ。隊長は、今の彼氏と別れたとしても、変わらない部分が自分にはあるってこと
を、ちゃんと言ってた。あたしには、そのことについて知っていてもらいたいって…。
「アイツの言ってることは、恋愛感情は持てないけど人としてはつき合って下さい、なん
ていうムシのいい理屈に聞こえるかもしれないけど、そこはね、わかってあげて欲しいと
こなんだよね。自分のことを知ってもらった上で、あと、どうするのかは、ユイちゃんが
決めることなんだって。もし、これで関わりが切れちゃうことになっても、それはひとつ
の選択で、自分には受け入れる覚悟があるって。そういうことなのよね」
そうか、だから隊長は、自分のことを話すだけで、そのこと以外、あたしに対しては、
何にも要求したりしなかったんだ。
「愛のカタチって、すごく個人的なものだから、当事者同士がオッケーなら、何でもあり
みたいなところがあるけど、その、当事者同士がオッケー、になるまでの過程が一番大事
なんだろうね。相手のあることだからさ、一方がこうしたいと思ってても、片方がそれは
イヤだって思ってることも当然ある。そうなったとき、って言うか、そういうときの方が
多いんだけど、どういう関わりを持てるか? っていうのは、やっぱ難しいんだよね」
あら、ちょっと、お説教入っちゃったかな? 蝶々さんは、悪戯っぽく笑った。