回想Cパート-3
今現在、隊長には、つき合って1年半くらいになる恋人がいるらしい。三つ年下の彼氏
だそうだ。音楽仲間の中ではプロデューサーのような感じで、いくつものグループに自作
の曲を提供したり、専用の音響機材を貸してくれたりする人なんだそうだ。たくさん人が
集まる場所が苦手みたいで、今まであたしと顔を合わせたことがなかったのは、その所為
であるらしかった。
恋人が彼氏。つまり、隊長はゲイなのだった。
性別は男性。社会的にも男性。性的指向性も男性である隊長は、恋愛やセックスの対象
として女性を選ぶことがないってことだ。生まれつき、性的な魅力を感じる相手は、全て
男性で、自分でするときに頭に思い浮かべるのも、もちろん、男性のヌード。
十代の頃に、言い寄ってきた女性とつき合ったこともあったみたいだけど、人格的には
ともかく、セックスの相手として認めることができなかったらしい。
ゲイ傾向の人の中には、バイセクシャルで、男性にも女性にも性的魅力を感じる人たち
が少なからずいるみたいで、自分はどうなのかはわからなかったんだけど、やっぱり、ど
うしても、その女性とのセックスができなくて、それが原因で別れてしまう結果になった
んだそうだ。
実際には、ゲイと異性愛女性のカップルは珍しくないそうなんだけど、自分とその女性
の場合は、お互いに、まだ若かったからってのもあって、相手の気持ちを思いやることや
感情のコントロールが上手くいかなかったんじゃないかと、苦い顔をしながら言ってた。
自分の性的興味が男性にしか向かないということについては、小学生の高学年辺りから
ハッキリと気付き始めて、それはもう、色々と悩むことが多かったらしい。
周りの男の子たちは、当たり前のように、女の子に対する興味をあからさまにしていく
けど、自分には、そういう“はしゃぎ振り”が、ちっともわからなくて、何だかひとりだけ
取り残されて行くような寂しさを、ずっと抱えて過ごして来たんだそうだ。
小さい頃に病気でお父さんを亡くしている隊長は、お母さんとふたりで暮らしてるけど
そのお母さんに、ゲイであることを伝えたときも、なかなか理解してもらえなくて苦労し
たらしい。最初はどうも、性同一性障害と勘違いしてたらしくて、やたらとからだのこと
を心配されたりして、そうじゃないとわかってもらうまで、だいぶ長くかかったそうだ。
「タツミくんが、僕のことを好きだと思ってくれることは嬉しいし、僕だって、タツミく
のことは嫌いじゃないけど、今言った理由で、恋愛対象としては考えられない。仮に、今
つき合ってる彼との関係が終わってしまったとしても、それは変わることがない。そのこ
とを、タツミくんには知っておいてほしいと思って、この話をすることにしたんだ」