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19歳
【ラブコメ 官能小説】

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間奏-1

――間奏


 髪を乾かして、化粧水で軽く顔をはたいたあと、甘酸っぱい匂いのコロンを首筋と手首
にちょっと振って、ノースリーブのブラウスに、ゆったりめのショートパンツを合わせた。
淡い色のルージュをさっと引いて、ぱぱっと身支度を終えてから玄関まで出ると、たたき
のところに何か小さな紙きれが落ちているのが目に入った。

<停電のお知らせ 定期電気設備点検のため、本日正午より午後6時まで停電致します>

 あららら。冷蔵庫の中の物は、さっき思いついたみたいに、氷を買ってきて一緒に冷凍
庫に詰めとけば大丈夫だろうけど、夕方まで電気が停まっちゃうんじゃぁ、いつものアレ
は無理ってことよね。アレっていうのは、ナオくんがバイトから早く帰って来られたとき
にしてくれるアレのことで、あたしがまだ眠ってたら添い寝して起こしてくれる“目覚めの
儀式”みたいなもののこと。 
 でも、あたしはすぐに思い返した。アレができないんだったら、違う楽しみ方をすれば
いいってことじゃない? どうせ氷を買うんだったら目一杯たくさん買って、それを使っ
て何かいいコトすればいいんだからさ。例えば“アイスプレイ”とか。そう考えると、電気
が停まったことも忘れて、何だか楽しくなってきた。

(ここで「アイスプレイってなんだよ?」とか、あんまり突っ込まないでよね。言ってる
あたしもよくわかんないんだから。そういう文句はアイツに言ってやってちょうだい!!)

 ヒールがちょい高めのミュールを生足にひっかけて、足取りも軽く部屋を出たあたしは
自転車に乗って近くのコンビニに向かった。

 ♪ fly away now fly away now fly away…

 最近ネットの動画サイトで聴いてからハマってる歌を口ずさみながら、あたしは上機嫌
で自転車のペダルをこいだ。夏らしい日差しがガンガン照りつけてて、ちょうど、一日で
いちばん暑くなる時間帯だったけど、全く気にならなかった。何せ、去年までは水泳部員
だったから、夏は日焼けするもんだっていう、覚悟と言うかあきらめと言うか、1年くら
いじゃまだ頭が切り替わってないって言うか、まぁ、そういうことよね、ははは。

 目指すコンビニは、町内にひとつしかない公園の向かい側を走っている幹線道路沿いに
あった。
 木の陰のベンチに腰をおろして涼んでいるお年寄りが二人いるだけで、日向で遊んでる
子供なんかは一人もいない。まだ、日が高いからなのかセミも鳴いてなくて、静かな夏の
午後って感じだった。あたしは、何だか、自分だけが浮かれているようで気が引けたので
歌うのをやめて、公園の前をさっさと通り過ぎた。

 コンビニの前の敷地の駐輪スペースに自転車を停めてロックをかけていたとき、店の方
から、いきなり、あたしの名前を呼ぶ声がした。

「あれ? タツミくん?」

 振り返ると、それは“今年の春まであたしが好きだった男の人”だった。


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