夫は多忙-3
美菜子は急いで風呂を溜めに行ったが、戻ってくると崇男は既にリビングで背広を脱いでいた。そして、部屋の真ん中に立ったままテレビのニュースを見て風呂に向かう。いつものように、湯を溜めながらシャワーでも使うのだろう。
「先に寝てていいぞ」
美菜子が何かを言う前に崇男はそれだけ言い、風呂場のドアはバタンと音を立てて閉じられた。
洗い物を済ませ、美菜子はエプロンを外して箱に仕舞った。これはもう使うこともないだろう。ベッドの端に座り、お隣とを隔てる壁に向かって両脚を広げる。
「鬼頭さん・・・」
崇男は風呂が長い。ベッドの中で起きて待っているつもりでも、たいてい美菜子は眠ってしまう。寝ている妻を起こさないように布団に入ってくる夫は、たとえ、妻が一糸纏わぬ姿で居ようとも指一本触れることなく、すぐに深い眠りに落ちて朝まで起きることは無い。今日だって、三日間の出張明けだと言うのに美菜子と目を合わすことはなかったし、盗み見た夫の股間に膨らみは見えなかった。
美菜子は白い壁紙に乳房を押し付けて揺さ振る。
「あぁ・・・ちくび、擦れるぅ・・・」
何をしているかまではさすがに分からないが、薄い壁の向こうに鬼頭の居る空間があるのは確かだ。今頃、シチューを頬張っているはず、もしかすると美菜子の貸した器に舌を這わせているかもしれない。そう思うと下腹部は熱を帯びる。美菜子は尻を風呂場の方に向ける。夫の気が変わって今夜は美菜子の相手をする気が起きるかもしれない。ふいに崇男が現れて、美菜子の濡れそぼる秘裂に熱い性器を押し付けてくるかもしれない。
「あぁっ・・・」
美菜子は壁に乳房を擦り付ける。二人の男に肉体を弄ばせて・・・。
「・・・はぁぁっ」
突然、聞こえてきた喘ぎに、美菜子はビクンッと全身を痙攣させ、辺りをキョロキョロと見回す。崇男は風呂に浸かっているはずだし、部屋の中に他人の気配は感じられない。空耳かと思った瞬間、
「あぁぁ・・・、美菜子ぉ・・・」
地を這うような、圧し殺した声が壁の向こうから聞こえてきた。美菜子はそぉっと壁に耳を当ててみる。
「美菜子ぉ・・・美菜子ぉ・・・」