淫らなふたりを見つめる目-4
体だけ、と考えて、ふいに部長の声がフラッシュバックする。電話越しの部長の声。ねっとりと絡みつくようないやらしい話し方。
『どうすればいいか、たっぷり教えてやるからな……』
背筋がぞくりとする。言外に含まれた意味。『社長に好きなようにさせているんだから、俺にも抱かせろ』……この上まだ部長にまで体を差し出すのは勘弁してほしい。それに、社長はマヤに高額な給料というわかりやすい見返りをくれるが、部長はマヤに何ひとつ与えてくれるわけじゃない。
きちんと企画書をみてもらえば済む話なのだから、プリントアウトしたものを持参してしっかり説明すればいい。それでも受け取って無いと言い張るのなら、そのときは堂々と社長に抗議しよう。マヤはそれ以上深く考えるのをやめ、携帯電話を取り出した。
ふと思いついて、ユタカと同じ中学に通う生徒の父親に連絡を取ってみる。生徒の名は松山サトシ。中学2年生で、成績は中の上。いつも明るく元気、典型的な中学生男子。サトシのところも、入塾の申し込みや懇談を含めてすべて父親が対応している。父親は祖父の代からの会社経営、母親の影は薄い。塾を訪れる母親たちの噂話を繋ぎ合せると、家庭を放って若い男と遊び呆けているらしい。
「もしもし、水上です。松山さん?」
『ああ、久しぶり。なんだ、今日はサトシの件か? それとも、夜のお誘い?』
「両方です。今夜はお忙しいですか?」
『いや、別にかまわない、まだ職場なんだ。少し待ってもらえれば行けるけど、両方っていうのが気になるな……サトシに何かあったのか?』
「いえ、サトシくんのお友達のことなんです。サトシくんはいつも通り元気いっぱいですよ」
『そうか。あいつはあんまり勉強もできないし、親にも反発してばかりで手を焼いているんだ。まあ、元気ならそれでいいかと思うようにしているけどね』
待ち合わせの場所を決め、出来るだけ早く行くから、と松山は慌ただしく電話を切った。
誰もいない教室で、マヤは鏡を見ながら髪をほどき、化粧の崩れを整え、スーツとシャツを脱いで、窮屈な下着を外した。灰色のロッカーに備え付けられた鏡に全裸のマヤが映る。形よく盛り上がった乳房、細い腰、滑らかな肌に肉づきの良い尻。男たちが群がるマヤの体。
今夜はどんなふうに可愛がってもらえるのだろう。体の奥の方が疼き始める。くたくたに疲れているはずなのに、食欲も無く体力の限界に近付いているはずなのに、それでも部屋に戻って休む気にはなれなかった。
松山は社長と同じように下着をつけない姿を好む。素肌の上にスカートをはき、シャツとジャケットを羽織る。締めつけられない解放感が気持ちいい。乳首にシャツの生地が触れるだけで声が出そうになる。全身が敏感になり、明確に男を求め始める。
肌の上を執拗に動き回る松山の指を思い出しながら教室を施錠し、マヤは待ち合わせ場所へと向かった。