メイド・ハウス-2
夜の8時。店の前に「Closed」の木の札が掛けられた。
「経済効果、抜群!」店の中に戻ってきた健太郎が言った。
「客層が一気に広がったな。」店の喫茶スペースに座っていたケネスも言って、コーヒーカップを手に取った。
「昨日の折り込み広告の効果だね、きっと。」
「そやな。『シンチョコ』の新しい二人のイメージキャラクターもそれでデビューしたからな。」
「けっこう素敵な人たちだったよ、あの人たち。」春菜が椅子をテーブルに入れ直しながら言った。
「素敵?」
「うん。みんな『オタク』って呼んでるけど、あの熱さは尊敬できるな、私。」
「あたしも、ちょっといやらしい人たちかと思ってた。」真雪がフリル付きのカチューシャを外しながら言った。「全然そんなことない。純粋だね。」
「お前らのイラスト付きの商品、飛ぶように売れてたな。今日だけで30ぐらいはいったんじゃ?」
「『シンチョコ』のイメージキャラクター付き。早速ファンをゲットしたね。」
「わいは満足や。これでいつあの世からお迎えに来てもろてもええってもんや。」
「まだそんなこと言ってる。」健太郎が横目で父親を見てコーヒーをすすった。そして春菜に向き直った。「ルナの初めてのデザイン商品、手応えありだね。」
「うん。」春菜は満面の笑みでうなずいた。
「みんな、晩ご飯だよー!」店の奥からマユミの声が聞こえた。
「わかった、今行くよ、母さん!」
「あー、お腹すいた。」そう言って自分の腹を押さえた春菜の身体に腕を回し、自分の方に引き寄せながら健太郎は店の奥に向かった。
真雪とケネスはお互い顔を見合わせて笑った。「ケン兄、ずっと春菜に触りたくてうずうずしてたんだよ、きっと。」
「そうみたいやな。」
ケネスはテーブルのカップをトレイに載せて二人の後に続いた。
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