刻まれた愛-1
「鬼は・・・一度血を吸った女の居場所はすぐわかると言います」
「・・・どうしてですか?」
「それは、その女性にマーキングのような"しるし"をつけるからです。愛する女性を見つけると、その鬼は永遠にそのひとを愛するようになり・・・・」
旅人は葵が興味津々なのを嬉しそうにみつめていた。ひとつひとつの葵の質問に対して丁寧に答えてゆく。
(しるし・・・居場所がわかる・・・・・永遠に愛する女性・・・・)
「・・・・・っ!!」
何かを思い出したように葵は胸元に指先で触れた。一瞬、黒い刻印のようなものが浮かび、その部分が熱く感じる。
(「・・・黒の刻印がある限り、お前がどこにいても俺は・・・・・・」)
ぽろぽろと葵の目から涙があふれた。切なくて・・・愛しくて・・・・誰だかわからないけれど、会いたくてしょうがない気持ちが胸をしめつける。
旅人は一通り物語を読み上げると、また来ると言って王宮を後にした。それから“葵様が涙を流すくらい異世界の物語をえらく気に入ったらしい”という噂があっというまに国中へと広まり、自作の物語を手にした民が王宮へと出入りするようになったのはいうまでもない。
葵はそれからもひとりひとりの作り上げた物語を嫌な顔ひとつせず、毎日のように聞いていた。
今日の客人は小さな孫を連れた温和そうな初老の男性だった。
「わしの話まで聞いてくださるとは・・・葵様はほんとうにお優しい」
笑いじわが老人の人の好さを物語っており、葵は微笑ましく見ていた。
「“精霊”という心の綺麗な者にしか見えない万物に宿る不思議なものの話をいたしましょう」
ドクン・・・ドクン・・・・・
(以前、血をすする鬼の話を聞いた時と一緒だ・・・また胸が・・・・・)
食い入るように老人の話に聞き入る葵。
「気高いその精霊は人に姿を見られることを嫌い・・・普段は楽園のような精霊だけの世界へ住んでおり、遊びにでかけた精霊の王子様は美しい心をもつお姫様と出会ってしまうのじゃ・・・」
(普段姿を見せない精霊・・・・・
お姫様と出会った、精霊の王子様・・・・・)
考えるような素振りをみせた葵に、老人は声をかけた。
「葵様なら・・・きっと精霊が見えますのじゃ」