小さな物語2-1
広場にたどり着くと、見渡す限りの民衆が花や贈り物を手に王への謁見を願いでていた。
中には小さな子供から老人、科学者や農民など様々な者たちであふれていた。人界を荒れさせたものたちでさえ、涙をうかべ葵の参上を今か今かと待ち望んでいた。
神官たちに付き添われて顔をみせた葵に歓喜の声が一斉に湧き上がった。まわりを見渡すと、難病におかされた者たちの気配も感じとることができ、葵は神杖を召喚し・・・癒しの光を放った。光が滝となって葵の頭上から流れてゆき、人々の体を浄化していった。
皆が口々に葵の名を叫び、人界全体が喜びにあふれた。たくさんの花びらが舞い、数日かけて人界はお祭り騒ぎとなったのはいうまでもない。復活した偉大な王・葵と、美しさと安寧を取り戻した世界。ただひとつ、葵の心にわだかまりだけが残っていた・・・・・。
――――――――・・・・
葵が帰還してから百年が経過し、時間の流れを感じさせぬ神官と王は穏やかな日々を過ごしていた。
「葵!!いたいたーっ!!
今日はおもしれぇ話をしてくれるって旅人が来てるぜ!!」
「本当?」
蒼牙に手をひかれ、微笑みながらふたりで客間へと歩いて行った。
薄汚れた外套をまとった旅人が、自作の書物を取り出してかしこまった。
「ああ、あなたが・・・
お会いできて光栄です。葵様」
「初めまして、私もあなたに会えたことを嬉しく思います」
握手を交わし、ふたりは微笑んでいる。
世界の広がる物語は葵が好むものだったため、挨拶も早々に葵は身を乗り出した。
書物を広げながら、旅人は静かに語りはじめた。挿絵も自分で書いているのだろうか?そこには恐ろしくも美しい赤い瞳の紳士が描かれていた。
「異世界にはいくつもの種族が存在しており、中には血をすする鬼がいて、今宵も美女の生血をもとめ、夜の街をさまよい歩き・・・」
ドクン・・・
(血をすする鬼・・・?異世界・・・・?)
葵の心臓が大きく動悸した。脳裏に浮かぶ、赤い瞳の青年と翼が見えた気がした。
「あ、あの・・・旅人さま・・・
その鬼の背には翼があるのですか?」
「そう、ですね。
美女をさらうためには翼は欠かせませんね」
と彼は微笑む。