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翼の記憶
【ファンタジー 恋愛小説】

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小さな物語-1

葵を見つめていた九条が穏やかな笑みをうかべる。






「・・・お前が戻ったら伝えたいことがあった」






「どうしたの九条?」






目を丸くして首を傾げる葵の動作ひとつひとつが愛しくてたまらない・・・葵の力によって本来の美しい姿を取り戻した人界の風がふたりの間を吹き抜けた。






「・・・私は神官だ・・・
主君であるお前に恋心を抱くことは許されないのかもしれない・・・」






そう言って葵の髪をひとすくいし、憂いを秘めたまなざしで唇をよせた。






「九条・・・」






「この気持ちに気が付いたのはお前と出会って間もない頃だ・・・敬愛なのか、慈しみなのか随分悩んだが・・・お前を失うたびにはっきりさせられたよ・・・愛してる」





九条の腕が葵をきつく抱きしめた。もう二度と離れてしまわぬように・・・。






九条に抱きしめらた葵は無言のままだった。






「・・・・・」






(愛して・・・る・・・・)






耳に残るいくつかの声と、そのたびに重ねられた唇の感触が誰のものだったか・・・葵は思い出せずにいた。






「ありがとう、九条」






どちらともとれない返事を葵は口にしていた。きちんと向き合わなくてはいけないことなのに、何かがひっかかり次第にそれが大きくなっていく。






「・・・葵、何を考えている?」






「え・・・・?」






九条はわずかに体を離して、葵の瞳をのぞいた。葵の目に浮かぶ戸惑いの色が容易によみとることができた。






「・・・っ、ごめんなさい九条・・・
私、忘れちゃいけないことを忘れてるみたいで・・・・さっきから別なことを考えてしまって・・・なんだか頭がすっきりしないの・・・・・」






(・・・・忌々しい異世界の記憶か・・・・)






嫉妬にも似た感情が九条を支配してゆく。九条の手に力がこもり、肩に手をおかれていた葵は驚いた表情をしている。






「すまない、もう少し落ち着いてから伝えるべきだったな・・・お前が戻ったばかりなのに無理をさせるところだった・・・」






葵が安心したように微笑みをむけると、別の神官から声がかかった。







「葵様、民たちが王宮に集まっております。ご挨拶をと、皆さんお待ちかねですよ」






仙水に言われ、葵は急いで広間へと向かっていった。







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