何か・・・足りない2-1
それぞれの神官から忠誠の口付けを受けて、葵は右手を頭上にかざした。
光が集まり球体となって、葵の手のひらへおさまる。確かな手ごたえを感じて握りしめると・・・神の杖が異次元から召喚された。
まばゆい光が人界の空、大地、海をわたり・・・雲の合間から優しい太陽の光が顔をだす。
冷たい風が春のあたたかい風のようにあたたかく穏やかなものとなり、枯れた大地には小さな芽が顔をだす。干上がった川や湖には澄んだ水が湧き出て、毒気のある空気さえも浄化されていった。
空にはいくつもの虹がかかり、人界の王の帰還を祝福していた・・・・。
動物も人々も歓喜にわきあがり、自分達のしてきたことへの後悔や王への感謝の気持ちが芽生えはじめていた。
目を閉じた葵は人界の様子を感じていた。まだ完全にとは言えないが、この世界のほころびを修復することは出来たようだった。それも、神官たちが力を注いでくれていたからこそ、人界は持ちこたえていたのだろう。これからは結界も必要なく、時間をかけて浄化していけば元の美しい人界へと戻るだろうと確信していた。
「この世界の至る所で皆の力を感じました・・・私がいない間、支えてくれてありがとう」
後ろで眺めていたエデンは驚いたように葵をみつめていた。(生前よりも数段力が増している・・・以前よりも悪化したこの世界を浄化してみせるとは・・・)
「私たちは葵様の足元にも及びません・・・」
首を振って柔らかく微笑み、仙水が答えた。
ただ、少しでも葵が笑顔を向けてくれるのが嬉しいのだ。
大和が手を差し伸べ、葵が玉座からおりてくる。すると、もう片方の手を九条にひかれ・・・中庭へと歩みをすすめていった。
(わたし・・・よくここでお昼寝してたっけ・・・・)
懐かしさに目を細めていると、ふとしたときに・・・楽器のような、何か音が聞こえた気がした。
「・・・・・」
「どうした?」
「・・・今なにか・・・
音が聞こえた気がしたんだけど・・・」
「そうか・・・」
(葵は向こうの世界でつらい別れをしたとエデン殿が言っていた・・・だが、その様子は今のところ見せていない。端々に感じる違和感は、心の奥底で抱えている記憶の断片なのだろう)