濡れる紫陽花、斎川霞-1
雨が降り続いていた。
夜半過ぎから降り続いた雨は一向に止む気配がない。欠伸をしながら静かにベッドを降りた女は、降りしきる雨を確認すべく窓際まで歩みよる。
「ん、、カスミ?」
ベッドに横たわる男が目を覚ました。腕の中から抜け出てしまった彼女、カスミを探すようにベッドを撫でる。
「起きた?珈琲作るから飲もう?」
雑多に脱ぎ捨てられた衣服に袖を通しながらカスミは笑う。年下の彼はまだあどけない幼さを残している大学生だった。
昨夜のサークルの呑み会で意気投合し、気付けばベッドを共にしていた。
長い脚に惹かれた。
細みのデニムパンツに包まれた長い脚。
組んだときに先の尖った蛇革の靴がコツンとぶつかった。
穏やかな話し方。
海を想わせる薫り。隣に座った瞬間に包まれた。
年甲斐もなく、この人に抱かれたいと思ったのだ。
私の部屋に来ない?
そう言ったのは、勿論私から。
「カスミさんは、よくこうして自分から誘うの?」
部屋に入ってすぐ、からかうように笑われた。
別にセックスしようって誘った訳じゃない。飲み直したかったから、そう建前をこぼして。
「ねえ、珈琲に砂糖とミルクはいる?」
「両方。できたら甘ったるいカフェオレが好きなんだよね」
そんな会話で好みを知る。
彼の遠慮のない言葉に軽く笑って牛乳をとりだす。
体の好みは昨夜結構解ったんだけどな、なんてクスクス笑いながら。