濡れる紫陽花、斎川霞-2
「そう言えば昨日うちのサークルのOBとして呑み会来たんでしょ?俺、途中入部だったからカスミのこと何にも知らないんだよね」
衣服を整えた彼がカフェオレを口に運びながらそう言った。
私は少し考えて口を開く。
「女性に年齢を聞くのは感心しないわよ?」
「ちぇーっ、自分から言ってくれるかと思ったのに」
そう口を尖らせ、勘が良いんだから、と漏らす。
それから、また懲りずに何度も問い掛けられたが、私は軽くかわしていった。
だって細かい話は必要ないから。
ほら、もうすぐ帰るでしょ?
「雨止まないな」
ぽつりと呟く彼に、もう一泊は言えなかった。
だって私は彼の名前さえ知らない。
彼の友達がリュウって、そう呼んでいたのは聞こえていたけれど。私に名前、言ってないでしょ?
所詮一回寝ただけの関係だから。
長い脚とか、雰囲気とか、そんな曖昧なインスピレーションだっただけで。
「カスミは明日仕事?」
窓の外を眺めながら呟かれた。
隣家の紫陽花が雨粒でぼやけていく。綺麗だな、そう思っていた時だった。
「日曜は休みよ」
飲み干した互いのマグカップには茶色の円が描かれていて。
何だか昨夜出会って、ベッドを共にして、こんな風にゆったりとした時間が流れるなんて想像もしなかったと思い返す。
彼の目がまっすぐ私を見つめていた。