〈聖辱巡礼・其の三〉-3
『ゴメンね先生。迷惑な電話が行っちゃって』
「!!!!」
見下ろすように顔を上げ、ニヤニヤと笑いながら梨央は幹恵に告げた。
その台詞は、さっきの男の電話を知っているからこそで、手出し出来ない自分の“弱み”を知っているから出来る態度だ。
『一生懸命に謝れば許してくれるかもねえ?アイツら、そんな悪い奴らじゃないしさ』
『残高0の通帳でも見せて土下座したら諦めんじゃない?もうお金ありませんてさ』
『そうだ……身体で払えば?昨日の先生みたいにさあ』
「ッ……!!!」
幹恵はギロリと睨むと、逃げるように校舎を後にした。
どこからも笑い声など聞こえなかったが、背中に三人娘の冷たい笑い声と、罵声が浴びせ掛けられているような錯覚を覚えていた。
ドアのへこんだままの自分の車に乗り、猛スピードで駆けていく。
唇を噛み締め、落ち着かない瞳を潤ませたままで……。
――――――――――――
『お〜。早いな幹恵』
『今日もエロい顔してんなあ?』
男の指定したコンビニに、幹恵は到着していた。
既に夕暮れは進み、昨日と同じ赤く焼けた空が幹恵に重くのしかかる。
昨日と同じく赤と白の軽自動車がニ台。
昨日は男は五人だった。
しかし、今日は六人に増えている。
想像通り、未熟者はツケ上がっていたのだ。
『幹恵。お前の車、あの端っこに停めてこい。早くしろよ』
「な、馴れ馴れしく名前で呼ぶんじゃねえよ……」
幹恵は呼び捨てにされる不快感を露わにして愚痴たが、それでも従うしかない。銀色の欧州車はコンビニの端に停められ、幹恵は男達の輪に加わった。
『じゃ、俺の車の後ろに乗れ。こんな所で金ちらつかせたらマズいだろ?』
幹恵は素直に従い、赤い軽自動車の後部席に乗った。他の男達も軽自動車に乗り込み、幹恵をジロジロと見ている。
と、幹恵の前に座る助手席の男は完全に身体を捩ると、窓の方向からナイフを突き付け幹恵の頬に当てた。
「!!!!」
『……学習能力って言葉知ってるか?』
『へへへぇ。車出してもOKだぜ』
幹恵は昨日も車内で刃物を突き付けられ、脅迫されて山中の小屋に連れ込まれたのだ。
今日もまた、狭い車内で刃物を突き付けられ、脅迫の憂き目にあっている。