疲弊と快楽と-1
翌日の火曜日、午前中から普段通りの業務が始まる。ほとんど眠れていないせいか、頭が鉛のように重い。教室の清掃を済ませ、パソコンのメールをチェックする。いくつかの連絡事項と、部長から企画書提出の催促。冬期講習に向けて、より魅力的で受講意欲を促進させるための企画を社員全員が考えて提出する。他の社員たちは教室業務が忙しいのを理由に、お茶を濁す程度の企画書を出せば許されるが、マヤだけはそうはいかない。
社長に優遇されているのが気に入らない社員たちがここぞとばかりにタッグを組み、マヤの企画書にだけ重箱の隅をつつきまわすようなチェックを入れる。
「誤字がある。内容がどうこうよりも、読む気がしないよ」
「利益率はどうなってるの? どんなに受講者が増える企画でも、利益が少ないんじゃどうしようもないじゃない」
「仕事なんかいい加減にしてても、社長のごきげんだけ取っていればお給料もらえると思ってるんでしょう? そうはいかないんだから」
企画全般を取り仕切る部長を含めた先輩社員たちから投げつけられる言葉。言われていることは事実かもしれないが、あまりに他の社員たちと差別される扱いに耐えかねて抗議したこともある。だが、その途端、マヤの教室にだけすべての連絡をまわしてもらえなくなり、社内行事の日程も生徒たちが進学先として考える学校情報の変更も何もかもがわからなくなった。マヤが発注した教材だけが行方不明になり、教室のために申請した予算がすべて通らなくなり、マヤ自身が高熱を出したときに代わりのスタッフを手配してくれるように頼んだことすらも無視された。
それはまるで小学生のいやがらせのようなものであり、腹が立つというよりもむしろ呆れかえる種類のものだった。それでも、そのままの状態ではいずれマヤの教室はやっていけなくなる。仕方なく先輩社員たちひとりひとりを訪ね、吐き捨てられる暴言をすべて受け止め、「その通りです、申し訳ございませんでした」と床に頭を擦りつけて詫びた。
そのときの先輩たちの得意げな目を、陰湿な笑いを、マヤは今も忘れることができずにいる。
だから今回も、どんなに忙しかろうが、心がダメージを受けていようが、それとは関係なく皆が納得いくような企画を考え、今週末の期日までに企画書を部長に提出しなくてはいけない。少なくとも今はまだ、この場所を失うわけにはいかない。