真夜中の告白-1
「し、社長……お疲れ様です。どうかなさいましたか?」
ぼんやりとして立ち尽くす久保田を押しのけ、マヤは社長の傍に駆け寄った。社長、と聞いて久保田が慌てた様子で頭を下げる。
「いや、ちょっと近くまで来たんだがな、まだ教室の電気がついているようだったから寄ってみただけだ。もう遅いぞ、まだ帰らないのか?」
「ええ、もうすぐ教室を閉めるところです。ご心配をおかけして申し訳ありません」
社長の視線は頭を下げた姿勢で固まっている久保田に注がれたままだった。その目は、暗に『こいつとはどういう関係だ』と詰問していた。
「あ、彼は去年からこちらの教室に配属になった講師です。今日は生徒の指導方法での打ち合わせが長引いてしまって……」
久保田が顔をあげ、背筋を伸ばし、張りのある声で挨拶をした。人の良さそうないつもの笑顔。
「久保田です。いつも水上先生には本当にお世話になっています。よろしくお願いします」
久保田の名前を聞いて社長の表情が少し緩む。彼が担当した生徒でクレームが出たことは一度も無く、担当生徒のほぼ全員が驚くほど成績が上がり、志望校に合格している。この会社のすべての教室の中でもトップクラスの成果を出し、久保田の名前は他教室の社員の間でも有名だった。
「ああ、君が久保田くんか。評判は聞いているよ。いつも良く頑張ってくれているらしいじゃないか……さ、今日はもう遅い。早く帰りなさい」
「あ、はい……」
久保田が遠慮がちにマヤのほうに視線を向ける。マヤは無言でうなずき、帰るように促した。足元に置いていたリュックを肩に担ぎ、久保田は「お先に失礼します。お疲れさまでした」と追い立てられるように教室を出て行った。
「ふうん、真面目そうな子じゃないか。しかし、あれはうちの会社にとって商品みたいなもんだからなあ、商品に手を出すのは感心しないぞ……おまえ、もうあいつと何発かヤッたのか」
久保田が階段を駆け下りていく足音を確認してから、社長が強引にマヤを抱きすくめた。身を捩ってそこから逃れようとしても、大柄な社長の太い腕はびくともしない。歪んだ口元から煙草と酒の匂いが強く漂ってくる。昼間の会議の後に抱かれたばかりなのに、1日のうちに2度もこんな目に遭うのはさすがに我慢できない。
「や、やめてください、教室では困ります……お願いします……」