夕-1
図書室の窓から見えるのは、中庭のベンチで本を読んでる朝陽と、その彼女の太股を枕にしてのんびり昼寝をしている我が弟、陽太。
お試し期間1ヶ月もとっくに過ぎて、今では大学内でも有名になるくらいのバカップルだ。
もし、あの時『厄介なのに惚れたね』なんて言わなければ、陽太は自分の気持ちに気付かなかったかもしれない……そしたら、2人は付き合う事はなかったかもしれない……と思うとなんともやりきれない。
仲睦まじい2人から視線を外した僕は、ハァッとため息をつく。
素直に祝福してやれない自分に嫌気がさす。
「ゆ〜う〜ちゃん♪」
そんな僕の腕に抱きついて来たのは、朝陽と付き合い始める前の陽太のお気に入りだった美夜(ミヨ)。
フワフワカールの茶髪に小柄なわりには大きい胸、くりくりの目はアイライナーと付け睫で飾られている。
うんざりしながら彼女を見下ろすと、ニヤリと意地の悪い笑顔を見せた。
「んふ♪未練がましい」
今、一番言われたくない言葉を嬉しそうに言われ、苛ついた僕は美夜の頭に本を落とす。
「痛〜い」
「そんなに強くしてないよ。大袈裟な」
ぷうっと頬を膨らます美夜から腕を引き抜いた僕は、再び視線を朝陽と陽太に戻した。
美夜も両肘を窓の淵に置き、その手に顎を置いて穏やかな時間を過ごしている2人に視線を注ぐ。
「いいなあ〜幸せそ〜」
羨ましそうに言いながらも嬉しそうな顔の美夜。
「……全く……余計な事をしてくれたよね」
美夜がクリアファイルを渡さなければ良かったのに。
「夕ちゃんに言われたく無〜い。そもそも、夕ちゃんが陽ちゃんに余計な事言ったんじゃん」
美夜に突っ込まれて、僕は微妙に視線を反らした。
「どうせ叶わぬ恋じゃない?だったら好きな人の幸せを喜んであげなきゃ♪」
確かに、叶わぬ恋だけどね。
「双子の弟に恋するなんて……変態なんだから♪」
バコッ
「いったぁ〜い!今度のはホントに痛い〜!」
強めに落とされた分厚い本の威力は凄まじく、美夜は目に涙を溜めて僕に訴える。
どうせ変態だよ。
信じられないだろうが、僕は陽太に恋している。
兄弟で、更に双子で、極めつけに男で……これだけ障害のある恋なんて他にあるだろうか?
でも、しょうがないじゃないか。
気がついたら好きになっていたんだ。
そりゃ、無茶苦茶悩んだ時期もあったし正直、死んでしまおうかと思った事もあったさ。
だけど、どうしたって陽太の事が好きなのは変わらないし……だったら彼の傍に居て彼の幸せを願おうって思ってたんだけど……実際にその日が来ると……。
今までだって彼女は居たが、遊びだった……だけど今度の相手、朝陽は違うって分かるんだ……双子の勘かな?
陽太は完全に彼女の虜……喜ばしい事だが寂しくもある……ああ、女々しい。