戻るべき処-12
俺達は結局起きてはお互いの体を貪りあい、何度も絶頂に達しあった。
少し疲れはあったが、とても充実している。おそらく、ナオコも。
そして、朝。彼女は服を着て、退出する準備をしていた。
「いっぱい、しちゃったわね。こんなにセックスしたのって、たぶん初めてだわ」
「そう? 旦那さんと、どっちがよかった?」
「こら、駄目よ、そんな事聞いちゃあ……」
俺は小さな子供を叱るような顔をした彼女に顔を近づけて、キスをしようとした。
しかし、ナオコは俺の胸に手を当てて顔を伏せ、そのキスを避けるようにした。
「ここで、あなたにキスされたら、何か戻れなくなっちゃいそうな気がして」
俺は、無理強いはしなかった。
彼女から離れようとした俺の頬に、ほんの少しだけナオコは唇を付けて言った。
「ごめんね?」
そういうナオコの顔は、何か憑き物が落ちたような、さっぱりした顔をしている。
「ねぇ、ユウジ君。また、会ってくれるかな?」
「ええ、ナオコさんなら、いつでも」
俺がこう答えると、ナオコは満面の笑みを浮かべて、ありがとうと笑った。
何かを吹っ切って、何の迷いもない、吸い込まれるような笑顔。
俺はそれ以上何も言えずに、彼女の笑顔に見とれてしまっていた。
***
ナオコの言葉とは裏腹に、以後彼女から俺に連絡が来ることは無かった。
俺はどこかでそうなることを、確信していたような気がする。
去る者は追わず。俺からナオコに連絡をすることも無かった。
それで、いいのだ。楽しいゲームだった、そういう気がする。
ナオコは、あくまで普通の健全な大人の女性だった。
おそらく、彼女の旦那も、やはり普通の男なのだろう。
そういう普通の人間がほんの少しだけどこかに寄り道をして、自分の位置を確認した。
ナオコは俺に寄り道をして、それで戻るべき処を見つけられたのだと思う。
俺は、街角に佇み、雑踏の中でまた誰かを探している。
俺には戻るべき処は、無かった。
こうやって何かを探し続けることで、そんな場所が出来うるのだろうか。
それとも、俺はそういう場所をそもそも欲していないのだろうか。
俺はその答えを探して、また雑踏の片隅に立ち続けるのだ。
−続く