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幸せを誓う。
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幸せを誓う。-2

「それ本当なん?」「本当って?」「本当に親御さんにやられたん?そんな…ひどいこと?」「うん。死ねって言われて。殴られるくらいならまだいいけど刺されるのはやだな」「ずっと耐えてきたん?」「うん」「誰にも言わなかったん?」「うん」「そんな細い小さい体で?」「うん」岩村が鼻をすすった。こういう時反応に困る。「えっと、海くん?泣きやみまちょうね?」「いっつも辛そうとは思ってたけどそんなにひどいんか。俺、秋本さんってお気楽なだけやと思ってた」「秋本って苗字で呼ばないで。親を思いだすから」「じゃあ理央さん」「理央でいい」海は深呼吸すると、「理央」と低い声で言った。「なに」「我慢してたんか。辛かったやろ」「うん」「なんでそんな淡々としてるん?なんで泣かないでいられるん?」「先生の前だから泣くの嫌なの」「…そっか」じゃあ教室戻るか。言われて立ち上がった。「ありがとね」「ええよ」後ろから見ると背中が広くて、海が父親だったらいいなと思った。そうしたらちょっとだけ涙が流れた。海は立ち止まると私が追いつくのを待って、頭にポンと手を置いた。

「眠…」「俺かて眠い。寝たらはったくからな」授業中、あくびをすると海に突っ込まれた。「海が寝たらみんな寝るって」「理央、もう補習してやらんぞ」溜め息を吐いて周りを見ると、後ろの席の万紀が固まっていた。「理央って呼ばれてるの?ていうか海って呼んでいいの?」「気にしない気にしない」首の後ろの痣が痛んで顔をしかめた。「…秋本さん教職室な」「判りました岩村先生」万紀は聞き違いかと勘違いしてくれたらしい。

「もう無理だよ、海って呼んじゃう」「な。俺も理央としか言えへん」体育館裏にふたりで座って昼休みに話すのが日課になって、この日もそうだった。「まあいっか」「バレなければな」海が吐き出した煙草の煙が澄んだ高い空に溶けて消える。
「で?なんかあったやろ」「なんで」「元気ないし首曲げた時顔しかめてた」「まあまた殴られただけだけど。自分で見えないから判んない」首筋にかかった髪を持ち上げると、「うっわ」と海が呻いた。「なに」「真っ青に鬱血してる」「いやぁねぇ全く」ミディアムカットにしていた髪はいつの間にか伸びていて、肩にかかるまでになっていた。
「なんかさぁ、私は幸せになれないみたいだよ。ずっとこのまま生きて行くしかないんだよ、きっと。親にあんたさえいなければ幸せだったのにって言われちゃったし」わざと明るく笑うと、海は煙草を踏みつぶしてから真剣な目で言った。「幸せになれないなんて思うな。心の持ちようなんやからいつか幸せになれる。それに理央が生きていちゃいけない理由なんかない。俺はむしろ理央に会えてよかったと思う。せやからそんな親の言うことなんか気にせんでええんや。俺は理央が好きやよ」泣かない、と決めていたのに、涙が一筋頬を伝った。「あたしさぁ」「うん」「ずっと私がいけないんだって思って自分を責めてたの」「うん」「生きてちゃいけないんだってずっと」「うん」「みんなと遊んでてもいつ捨てられるか判んなくて」「うん」「好きって言われたことなかったから」「うん」「海が言ってくれてよかった」「…理央、そうやって泣くのも大切なことやよ。それにみんな理央の事はきっと好きや。俺もこう、手のかかる妹みたいで」「私から見たら馬鹿な兄貴かもしくは父親」「なんやそれ」あははっと笑ってるのに涙が流れた。「私だって母さん達と普通に過ごした
いよ…っ」ふわっ。抱き締められて心臓が踊り狂う。「きっと大丈夫や、理央も幸せになれる。親御さんとも普通に話せるようになる。大丈夫や、な?」「うん…」ずっと溜めていた思いが迸る。涙が止まらない。海は背中をポンポン撫でてくれた。「理央は悪ない、親が悪いんや。俺はお前が好きやから安心せぇ。世界中が理央を責めとる訳やないんやからあきらめたらあかん。いつか幸せになれるから大丈夫や」

そして終わりは突然やってきた。


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