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深海の熱帯魚
【純愛 恋愛小説】

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.31 久野智樹-2

「風邪かなぁ」
 心配そうに和室の方へ目を遣る君枝ちゃんに「そうかもね」と曖昧に返した。
 俺は焼き鳥の串から肉を全て落とし、食べやすいようにしてから箸でつついた。
「焼き鳥旨い。君枝ちゃんも食べな」
 彼女も「いただきまーす」と言いながら箸を伸ばした。
 去年の今頃の彼女なら考えられない。男とこんなに近くで話して、一緒にご飯を突き合うなんて。
 彼女自身、努力した結果だろうと思うが、悔しいけれど塁の力は大きかったと思う。
 あいつが持つ、ちょっと中性的な感覚が、君枝ちゃんの緊張を解いて行ったんだろうと。
 和室から、盛大な寝言が聞こえたが無視した。君枝ちゃんの耳にも入ったからだろうか、彼女の髪の隙間から除く耳が、真っ赤になっている。
「塁、君枝ちゃんの事が本気で好きなんだよ」
 君枝ちゃんは箸を置いて、動きを止めた。「誰がそんな事......」
「分かるんだよ、あいつと何年一緒にいると思ってんの。だから君枝ちゃんが言った好きっていう言葉に拘ってるんだよ」
 んんーと言葉にならない唸り声をあげている。
「私はどうしたらいいんだろう」
 俺に訊かれても困るなぁと思うのだ。彼女が、どうにかする気があるのかないのか。それは俺にも関わってくる事なのだから。
 急に拓美ちゃんの大声が響いた。
「ちょっと至君連れて二人で居酒屋行ってくる」
 荷物とコートを抱えて、二人は玄関を出て行ってしまった。眠っている塁をのぞけば、君枝ちゃんと二人になってしまった。


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