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深海の熱帯魚
【純愛 恋愛小説】

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.8 太田塁-1

 同じ、か。恋人いない歴イコール年齢。
 何度スケッチブックにあの瞳を描いてみた事か。もう面倒になって、顔は描かずに目だけを描いていたのだが、一向に再現出来ない。
 色をつけてみたらどうかと、色鉛筆で彩色してみたら、雪女の目のような、妖怪の目になってしまって、すぐに消しゴムで消した。

 来週末、サークルでバーベキューをする事になった。学内の倉庫からバーベキューセットを部室に運んだ。
「女の子にこんな事はさせられない」と至は両手にガシガシと荷物を持ったが、それが拓美ちゃんに対する言葉だと思い俺は「矢部君、これ持って」と折り畳み椅子を二つ持たせると「塁!」と後ろから口うるさい小姑みたいな智樹の声がした。
「俺が持つからいいよ」
 智樹はそう言って矢部君の手から椅子を取ろうとし、矢部君は何故か「ヒャッ」とか言いながら手を引っ込めた。椅子が手から落ち、派手な音を立てた。男性恐怖症か?
 智樹は女に優しい。いや、男にも勿論優しいのだが、イケメンが手伝ってか女の子に優しいと言うイメージがある。
 ついでに言うと、サークル内では拓美ちゃんよりも矢部君に、何故か優しい。俺が矢部君をからかうと必ず、智樹がフォローに入る。気に入らない。何が気に入らないのか、自分で説明するのも難しい。

 レンタカーは至が借りてくる事になった。親分肌は仕事が多い。
「助手席は拓美ちゃんな」
 そこは運転手のワガママを訊いてやる事にした。
 俺は矢部君の瞳を覗こうと思う。描いても描いても上手く描けない、あの瞳を。隣に座ってじっくり見てやる。だからこそ、智樹が後部座席の真ん中に座ったら俺は全力で智樹を引き摺り下ろす。矢部君は俺の隣だ。


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