レクチャー-8
広瀬は涙を覆い隠した手をそっと掴むと、あたしにいきなりキスをした。
触れるだけの、優しい優しいキス。
驚いて目を見開くと、広瀬はなぜか舌打ちをした。
「お前、そう言うことはもっと早く言えよ!」
「ひ、広瀬……?」
「お前の気持ち知ってたら、俺、他の娘に告ったりしなかったぞ」
「え、どういう意味……」
「だから、お前とおんなじだよ! 友達以上に見られてないと思ったから、いい加減見切りをつけて他の女に目を向けようと思ってたんだ。ったく、人の気持ちも気付かない鈍感女がよ」
そう言って、広瀬はベッドから足を下ろして背中を向けた。
そして、そのまま、
「でも俺、初めての相手はどうしてもお前がよかったんだ。だから、陽介に頼んでこうなるよう仕向けてもらったんだけど……」
その言葉に涙がさらに溢れてくる。
今度はうれし涙という形で。
「広瀬、あたし達同じ気持ちだったの?」
身体を起こして背中に立てた爪のあとをなぞれば、広瀬はクルッと振り返ってあたしの頭を軽く小突いた。
「ったく、てめえのせいで彼女と気まずくなるだろうが」
「どういうこと?」
「自分から告っておいて、たった1日で別れを言うなんて最低にも程があるだろ」
あたしを睨みつける広瀬の顔は、どことなく照れたようだった。
でも、次の瞬間に彼はあたしの頬にそっと触れると優しく涙を拭った。
「お前のために最低男になるんだ、責任とって幸せにしてくれよ」
広瀬の言葉に思わずプッと噴き出してしまう。
「幸せにしてなんて、そんなの男が言うセリフじゃないよ」
「うるせえ、片思い期間が長かったんだから、それくらいいいだろ」
そう言いながら広瀬はあたしにキスをして、再びベッドに押し倒した。
「あたしだってずっと片思いしてたんですけど」
あたしがむくれながらそう言うと、広瀬は片方の眉を少し緩めて笑った。
「じゃあ、羽衣のこと悦ばせられるくらい精進しますんでこれからもレクチャーよろしくお願いします」
「よろしい」
あたし達はクスクス笑い合ってから、どちらからともなく裸の肌を再び重ね合わせた。