あたしの友達-4
「いやあ、これで広瀬にもとうとう彼女ができちまったか」
白々しく陽介が笑う中、あたしは俯いてしまう。
頭の中は、陽介に気持ちがバレたのかという不安と、広瀬に彼女ができたショックでグラグラ混乱しっぱなし。
なのに、コイツらはいつも通りに会話を続けていた。
「でもさ、お前女と付き合うの初めてだろ? そこら辺大丈夫なの?」
「何がだよ」
「だから、デートとかイベントの時とかうまくリードできんのかなあってことだよ」
「あー……」
広瀬は少し困ったような顔をした。
女の子ともろくに話さなかった広瀬には、女の子が喜ぶようなデートスポットとか、イベントの過ごし方とかは知らないかも知れない。
広瀬の顔を横目で見つめていると、バチッと目が合った。
そしてその瞬間、広瀬はニッと笑うと、
「そうだよ、そういうのは羽衣(うい)に聞けばいいんだよ。曲がりなりにも女なんだし」
と、あたしの肩をバンバン叩いた。
痛い。肩が、じゃなくて“曲がりなりにも”という扱いを受けた心が。
そんなあたしの胸の内など知らずに、広瀬は、
「なー、羽衣ちゃん。これから女心って奴をレクチャーしてくれよ」
と言ってから、発泡酒を一気に飲み干した。
……人の気持ちも知らないで。
だけど、そんなことは口が裂けても言えない。
だって。
「しょうがないなあ、ちゃんとお金払ってよ」
あたしと広瀬は友達だから。
今更好きだと言ったって、広瀬を困らせてしまうだけなのだ。
あたしさえ我慢すれば、この関係は崩れない。
これでいいんだ。
そう無理矢理自分を納得させていると、陽介がニヤニヤあたしを横目で見ては、
「アッチの方はどうすんだよ」
と、煙草を灰皿に押し当てながら言った。
「アッチ……ねえ」
広瀬が少し顔を赤らめて俯く。
いつもの下ネタに話題が及び始めたけれど、今日はとてもそんな話を聞いてられない。
いずれ広瀬が彼女とエッチしてしまうのかと思うと、嫉妬で気が狂いそうになるからだ。
「お前、経験ないんだし、ヤった時に思いっきり下手だと愛想つかれちまうぞ」
「……だよなあ、どうしよう」
広瀬が困った顔になっている。
陽介は絶対あたしの気持ちに気付いている。
我慢すると決めたって、好きな気持ちはそう簡単には無くならない。
陽介はSっ気があるから、わざとこんな話をして、あたしの反応をみて面白がっているんだ。
こんな話題、やめようよ。
そう陽介に抗議の眼差しを向けると――。
「ちょっ、何!?」
コイツはいきなりあたしの手首をグイッと掴んで自分の方へと引っ張ったのだ。
え、何!?
びっくりして陽介を見るけれど、彼は素早くあたしを後ろから抱き締めるような形であぐらの上に座らせたかと思うと、タンクトップの裾を思いっきりたくし上げた。