投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

王国の鳥
【ファンタジー その他小説】

王国の鳥の最初へ 王国の鳥 19 王国の鳥 21 王国の鳥の最後へ

南風之宮にて 1-7


 案内された応接室の前には宮の司が待っていて、王女の姿に深く頭を垂れた。
 ハヅルは王女の背中ごしに、彼女をこわごわとのぞいた。

 頭巾の上から銀の円盤を鎖で連ねた略式の冠をつけ、濃い青の長衣は見習いたちと同じような形ではあるが、ずっと上質な生地の襟周りと袖口に金糸の豪奢な縫いとりがされている。
 神官らしくごく薄化粧しかしていないが、きりりと整った濃い眉に、彫りの深いはっきりした顔立ちは、年相応に刻まれた皺を考慮にいれても美女の部類と言ってよかった。
 ただその造作以上に、濃い鳶色の目のもつ眼力の強さが何よりも印象深い。
 笑うことがあるのかと疑わせるような安らがない雰囲気を持つ、厳めしい女だ。
 そこらの男よりも背が高く体格もがっしりとしているので、布の量が多く足下まで裾広がりの神官装束もあいまって、彼女はやたらと大きく見えた。

「こちらでございます。王女殿下」

 彼女は厳しい顔つきを、可能なかぎり愛想良く笑みの形にゆがめながら王女に手をのべた。
 当然、ハヅルは王女の後についていこうとしたのだが……

「これ、鳥娘。お前はいけません」

 姿形にぴったり合った、低く厳しい声音が叩きつけるように言った。
 ハヅルはぴくりとこめかみを震わせた。

「宮の司殿。そんな呼び方はやめていただきたい」

「鳥娘を鳥娘と呼んで何が悪いのです。お前はツミの者でしょう」

 悪びれもせず、宮の司は彼女を見下ろしながら言い放った。

 つまるところ、ハヅルはこの南風之宮の司が苦手で仕方ないのだ。

 四方神殿は建国の祖を祀る場でもある。その司の地位につく者は、ツミの一族についての秘密ごとを、全てでないにしろ知らされていた。
 他の神殿の宮の司は、ツミの一族と知れば敬意を払うのが通常だ。
 表向きは王宮の庭番として契約されている、武技に優れた傭兵部族というのが彼らの立場だったが、神殿にしてみればロンダーン建国にあたって使わされた御前神の子孫である。
 約束された王権の守護者なのだ。
 だというのに。

「まったく、ツミの頭領はなにゆえこんな幼いひな鳥を王女の守護になど……」

 まったくひそめる気のない大きさの声で、彼女はぶつぶつと言った。

「司様。この娘はまだ幼いけれど、ツミの次期副頭領にもなろうという名家の者なのですよ」

 さすがにあまりな言いぐさと思ったのか、王女が眉をひそめながら諫言した。
 宮の司は困惑したように額をおさえた。表情は、怒っているようにしか見えないのだが。

「殿下がそのようにおっしゃるのではしかたがない」

 やっと礼儀を尽くす気になったかと、ハヅルがほくそ笑んだところで、宮の司は真顔で言った。

「鳥娘。お菓子をやるから向こうで待っておいで」

 ぶち、と何かが切れる音を、ハヅルは確かに聞いた。

「……司殿、」

「なんです」

 ふんぞり返って聞き返した宮の司に、ハヅルは痛烈な一言をぶつけてやろうと口を開いた。
 だが結局、彼女は何も言えずに終わった。王女がにこやかにこう言ったのだ。

「ハヅル、お外で待っていなさい」

 ハヅルは目を瞠って王女を見つめた。
 王女はわざわざ宮の司に背を向け、彼女に向き直った。

「奥の院の見学をしてきたら? 確か去年、お前のご先祖様の像を白石で新造したのですよ。お前に似て真っ白い、とてもきれいな像よ」

 王女の肩ごしに、宮の司の勝ち誇った顔が目に入ってハヅルは歯噛みした。
 王女がすまなそうに目配せしたのも、あまり慰めにはならなかった。


王国の鳥の最初へ 王国の鳥 19 王国の鳥 21 王国の鳥の最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前