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王国の鳥
【ファンタジー その他小説】

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南風之宮にて 1-8


 奥の院には神域の入り口とは別に鳥居が建てられていた。
 南風之宮の鳥居は独特の形式で、二本の柱を上部でつなぐ笠木と貫の間に透かし彫りの彫刻が施されている。

 ハヅルは周囲にだれもいないのを確認すると、ひょい、と一足飛びに飛び上がって鳥居の貫の上に登り、彫刻の合間に潜り込んだ。
 鳥居は巨大なもので、笠木と貫の間もハヅルの身長ほどもある。
 透かし彫りの隙間も十分なスペースがあり、彼女はくつろいで寝転がった。

 複雑な彫刻の中にも、白い鳥の意匠がそこかしこに組み込まれている。
 奥の院の入り口に置かれた翼を広げた白い猛禽の像を、ハヅルは遠目にちらりと見た。細密な彫像で出来はよいが、ハヅルにはあまり似ていない。
 本殿に入れば、御神体の安置された櫃の前にも、決まって白い鳥の彫像が置かれている。
 神殿はいたるところ鳥の意匠だらけと言ってもよかった。

 祖神の御前神としてそれ自体も信仰の対象となっている、ツミの一族の祖先である。
 宮の司も神事においてはあの彫像の前で祈りを捧げているのだ。
 ハヅルとしては、これは我々のご先祖様なんだぞと宣言してやりたい気持ちでいっぱいである。

「あーーもう!」

 思い出してむかむかしながら彼女は鳥居の上で手足をじたばたさせた。

 そのとき下方から、静かな声がかけられた。

「また宮の司にいじめられていたのか?」

 ここで聞くはずのない声だった。

「あ、」

 ハヅルは閉じかけていた目をぱっと開けて、身を起こした。

「アハト!お前、何でここに」

 鳥居の真下で彼女を見上げていたのは、幼なじみのアハトだった。
 いつものかっちりと着込んだ衛兵服ではなく、普通の町の少年のような平服姿である。
 アハトは、とん、と地を蹴って、ハヅルのいる鳥居の上まで跳び上がった。

「先触れに来た。王子が参拝に来る」

 ハヅルは目を丸くした。

「王子が? どうして」

「俺に訊くな。王子が、急に、決めたんだ」

 急に、を強調してアハトが応える。

「でも、それでは……」

 ハヅルは首をかしげた。

「姫がせっかくほとぼりを冷ますために王都を離れたのに、それでは意味がない」

「だから俺に言うな。一度決めたら何を言っても聞く耳持たんのはお前も知っているだろう」

 うんざりといった調子のアハトに、ハヅルは苦笑した。それでアハトが苦労しているのを彼女はよく知っているのだ。

「それで、先触れにわざわざお前が、道中の王子のそばを離れて来たのか」

「周辺は調べた。危険はない。エイもついているしな」

「エイ?」

「ああ。王子とエイは明日着く予定だ」

 ハヅルはふうんと、関心のない調子を装った。

「彼も来るのか」

「というより、エイを連れ回したいんだ。あの王子は」

「何だそれ」

 意味のわからない考察に、彼女は眉をひそめた。

「親友なんて初めてできたから自慢したいんだろ」

「……毎度思うが、変な王子だな」

 アハトは、そうだな、と強く頷いた。


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