チャンネル-5
町の人々が沈む夕日を見つめていると、黒い影がゆっくりとこちらに向かってくるのを見つけた。
「誰か来るよ」
女が指をさすと、怪我をした男が馬にまたがり、影に向かって馬を走らせた。近づくと、馬鹿馬から今にも落ちそうなジョニーだった。急いで自分の馬に乗せると、彼の女の所へと運んだ「ああっ…しっかりして!」女は彼の顔に頬を付けて涙を流した。誰の目から見ても、彼は助かりそうになかった。青白い顔をした彼の手は冷たく、腹部に当てた布からは血がにじみ出ていた。しかし、彼の表情は笑顔で満ちていた。白くなった唇から震える小さな声で彼女に言った。
「一生お前を守りたかった。愛している…」
目を閉じて動かなくなった彼の唇に、彼女はキスをした。
「私も愛してるわ。とても」町の仲間達が集まり、自分達を救った英雄に別れの歌を歌った。そして、目を閉じた彼の心は満たされた。体中に痛みを感じると、彼の意識はまた別の世界へと向かっていった。
目が覚めると彼は自分の部屋にいた。ソファーに横たわり、右手には銃ではなくテレビのリモコンが握られている。チャンネルを変えようとボタンを押すと、縞模様の色が「ピー」っという音と共に現われた。チャンネルを変えると放送終了の音楽が流れていた。
「うっ…」
彼の体に痛みが走った。腹部を押さえると、大量の血が流れ出した。彼は現実の世界がどこにあるのか朦朧としていた。薄れゆく意識の中、チャンネルを変えると砂嵐が彼を襲った。
彼はその世界の扉を開けようと左手を差出し、空を掴んだ。床に転がる彼の髪の毛は次第に白くなり、皮膚は萎びて乾いていった。何年も別の世界で生きたあかしのように。俯せで倒れている彼の表情は穏やかだった。消えて行く意識の中、彼は幸福を感じていた。
彼の夢は叶い、今遥か遠くの世界へと旅立った。
彼の部屋に響き渡る砂嵐の音は、また別の誰かの夢を叶える子守歌を歌い始めた。別の世界へと続く不思議な形をした扉を開けて…。