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チャンネル-1

職場の同僚が三日も無断で休んだ。同僚とそいつのアパートまで様子を見に行くと、部屋には明かりがついていた。チャイムを鳴らしドアをたたいても応答ない。ドアノブをひねると鍵はかかっていない。同僚と共に部屋に入る事にした。居間に足を踏み入れると、床に倒れている人を見付けた。「おい、誰か倒れてるぞ」同僚が大声で言う。一緒に近寄ってみると、床には血まみれの男性の老人が俯せになって倒れていた。
真っ白な頭髪をした老人の右手にはテレビのリモコンが握られていた。
そして、夕方のニュースが入る時間にもかかわらず、テレビの画面には砂嵐が激しく揺れ動いている。
永遠ともいえる時間。寂しさをかき消すかのように、「ザー…」という砂嵐の音が部屋中を包み込んでいた。

暗い部屋で一人、ソファーに横になりながらテレビを見ている男性がいる。彼は一人暮らしの独身で、思っている事も話せない小心者で公務員をしていた。今まで彼女と呼べる女性は数人いたが、それも長くは続かず、付き合っていたという事実も周りの人からみるとそれも定かではないようだった。
彼は仕事が終わると、そのまま狭い部屋へ帰るか、気が向いた時だけパチンコをしに行く。
たまに職場の同僚に[食事か飲み]に誘われる事もあるが、いつも答えは「NO」で周囲からの印象は悪かった。
本当の所、彼は単に極度の恥ずかしがり屋で、人前で話すのが下手なだけだった。彼はまだ声変わりのしてない自分の声に自信がなく、自分と他人とを比較しては(自分の方が劣っている)と自己評価し、自分の殻に閉じこもっていた。
そして、今日も一人、コンビニ弁当を食べながら部屋でテレビを見ていた。
電気を消し、ビールを飲みながらテレビを見る。そしてソファーに横になると、テレビのリモコンを手にし、5秒ごとにチャンネルを変える。10年もの間、いつもと変わらぬ動作を彼は繰り返し、こう思い続けた。「俺も、こうなりたいよ」
彼の夢は声にするとよけいに寂しく、狭い部屋の中で小さく反響した。
彼は寂しかった。そしてこんな年でくだらない事を考えている自分が情けなかった。それを紛らわすかのように彼は小さな声で笑い出した。
「なれる訳ないのにな。馬鹿だな…」
大きな口を開けてあくびをすると、あくび混じりに彼の目には涙が浮かんだ。
憧れの俳優達が演じるテレビの中の世界。自分の味気ない世界とは、また別の世界。
いつもよりビールを飲みすぎた彼は、テレビから放たれる眩い光に包まれ、目が眩んだ。目を閉じた彼は一瞬、体中に電気を感じた。そのショックで彼は気を失った。


先生、先生……
頭いてぇ…うるさいなぁ。彼が目を開くと、なぜかそこは病院の中だった。二日酔いでアルコールにやられたのかと思い、待合室の椅子に腰をかけていると、看護士に声をかけられた。
「入間(いりま)先生、何してるんですか?急いで下さい、回診の時間です」
彼は一瞬聞き間違えたのかと辺りを見回したが近くに誰もいない。看護士が不思議な顔をして見ている。
「ああ、わかっている」
なぜか言葉が口の中から勝手に飛び出した。そして、その声は自分が理想とする太くてやわらかい声だった。彼は戸惑いながら廊下を歩くと、近くの壁にある鏡で自分の姿を確認した。そして動揺した。そこには自分の姿ではなく、二枚目男が立っている。しばらくそこに立っていた彼だが、少しすると頭の中は冷静さを取り戻した。
彼は思い出していた。自分の部屋で起きた事を。それは、彼が5秒ごとにテレビのチャンネルをかえて見ていたあの画面を。確か最後に目にしたのは病院を題材にしたドラマだったはず。彼は事の次第に驚いてはいたが、これはただの夢の中か空想の世界だと軽視していた。そして彼は医者を演じた。
回診、オペ等なぜか勝手に体が動きだし、必要な言葉も口からスラスラと出てくる。自分が自分ではない他人の中に入り込んでいる。操り人形のような感覚だ。そして彼はエリート医師を演じきり、近くにいた美しい看護士を食事に誘った。
なぜか車を運転した経験のない彼がジャガーを手懐け、美しい看護士を隣に乗せてさっそうと夜の街を徘徊していた。隣の獲物は美味しそうな匂いを放ち、彼は今の自分の状態は奇跡に近いものだと感じていた。そして、その夜は彼女と一夜を共にした。

次の日、彼の周りにとんでもない事態が起きた。昨夜彼が寝た看護士の男が、病院に殴り込みに来ていた。「お前が入間か?俺の女に手ぇ出すとは上等だ!いい根性してるな」
目の血走ったチンピラ風の男だ。男は懐からナイフを取り出すと、彼に向かって突進してきた。
「やめろ!」
一瞬、腹部に痛みが走った。そして脇腹から足元へと鮮血が流れ落ちた。
チンピラはその場から逃げ去り、彼は逃げていった男の後ろ姿をじっと見ていた。彼は痺れる腹部を両手で押さえると、震える小さな声で必死に叫んだ。
「こんな死に方は嫌だ。俺だって格好いい人生歩きたかったんだ!」
彼はそう言うと、倒れこみ、静かに目を瞑った。そして体中が金縛りの如く動かなくなると、またあの電気ショックが起きた。
彼が目を開けた時には別の世界が彼を待ち受けていた。


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