チャンネル-2
「大丈夫ですか？安田二等兵！よかった、気が付きましたか？」
目を覚ました彼は、相手の服装を見て寒気がした。そして自分の格好も…。これはどう見ても日本軍の兵士だ。そして日の丸が…。彼は耳をつんざく爆音に縮こまっていると、先程話し掛けてきた男が不信そうに彼を見ていた。
「武者震いですか？あなたのような方でも恐れる事があるのですか？」
男は銃を脇に構えると、耳を押さえていた彼に向かって話し掛けた。
「私は恐れるもの等何もない。国に残した家族の為に。お国の為に私はこの命を捧げる事ができる。そして、それは安田さん、あなたも同じはずです」
男は銃弾の嵐の中、窪みから抜け出すと、近くの木に身を隠した。銃は脇に抱えたまま、男は彼に向かって敬礼をした。
彼は自分がなぜこのような戦地にいるのか、現実感のないまま、ただ呆然としていた。また先程の男が彼に向かって叫び出した。
「今の自分にできるのは愛する者の為に戦う事であります！」
男は泥だらけの黒い顔に白い歯を見せてニッと笑うと、銃を構え、叫びながら敵に向かって銃を打ち出した。そして、一瞬のうちに、その男は銃で体中に弾を打ち込まれ、泥の土の上に吹き飛ばされた。
「何なんだ、これは…」
彼には目の前の状況を把握しろと言われても無理な事だった。
生と死の世界。
こんな悲惨な物を目の前に押しつけられたら誰だって逃げ出したくなる。呆然とその場にいると、彼は敵に見つかった。彼は両手を上げ、自分は戦う意志が無い事を伝えようとした。敵と思われる人達に銃を突き付けられ、これまでかと思った彼だが、両手を後ろ手に縛られ、そのまま敵の捕虜となり、とても凍り付く寒い場所へと収容された。
寒くて不潔なこの世の終わりを見せ付けられた。ノミや飢え、病気と戦い、夜の凍り付く寒さで何度も死ぬのではないかと肌で感じた。どれくらいここにいたのだろう？ある日戦争は終結した。しかし、彼の中には敗北感よりも飢えや病気の恐怖感が植え付けられた。そして、戦争の悲惨さ。何の為に人は同じ人間と争い殺しあうのか。そこまでして手に入れたいものは何か。彼は理解できずにいた。そして、今、彼の目の前には戦後の日本がある。焼けた家のガラクタを片付ける人達。彼らが地球を動かしている。必死に生きようとする彼等のエネルギーを彼は感じていた。
彼の後ろで子供たちが遊んでいる。瓦礫の中から何かを見つけだした。黒く光るその鉄を見て子供たちは「格好いい」と言った。
彼は呆然と遠目から子供たちの様子を見ていると、宝物を見つけた子供の一人が彼の方に鉄を向けた。
「これって本物だろか？」
子供が黒い鉄を確かめようと、いじりだした。彼は宝物の正体を知ると、子供達に向かって走りだした。
「危ない！」
子供が手にした銃はうなりを上げ、円を描いて飛んできた。その弾は彼の頭部を突き抜けた。
彼の意識は一瞬にして消滅した。彼の意識は弾丸によって弾かれ、そのショックなのか、あの電気ショックなのか、彼の意識はまた別の世界へと飛ばされていった。今度はどこなのか。彼は目を開けると、憧れていた世界に来ていた。
「どうしたジョニー、酒に飲まれたか？」
彼はバーのカウンターで眠っていたようだ。カウボーイハットを被る男たちのなかで自分が一番若いようだった。西部劇の中に彼はいた。そして、バーの外を見ると、赤土の上に馬がいる。彼は外へ出ると、一番手前の馬に乗ろうとした。
「ジョニー！そいつは暴れ馬だぞ！」
彼は振り落とされ頭を打った。とても痛かった。周りの男たちは彼に向かって叫んだ。
「馬鹿馬に乗る馬鹿を見るのは初めてだぜ！」
彼は馬鹿にされたのが悔しかった。周囲の野次馬達にではなく、この馬鹿馬に！何度も暴れ馬に挑戦したが、何度も振り落とされた。「あの馬鹿誰よ！」
「お尻の青いジョニーだよ」女たちは、狂ったように暴れ馬に乗ろうとする彼を見て笑っていた。そのうちの一人の女が笑いながら言った。
「あの馬も、そのうちきっと乗せてくれるわよ」
その日はアザだらけの体を引きずって、仲間達と共に部屋へと連れ戻された。
「ジョニー、笑い者になりたいのか？あんまり無茶するなよ！」
仲間の一人が言った。