伏兵は女王様 <後篇>-4
隆の言葉に絶句する私。
この子はいったい何を言っているのだろう。
そりゃ女として生まれたからには可愛く見られたい。
綺麗なんて言われたらそれこそ舞い上がってしまうだろう。
けれど私なんてちょっと勉強が出来るくらいの普通の女。
自慢出来そうなのは、せいぜいエッチな妄想力くらいじゃないか。
「…………あ、あのね隆?」
すっかり動揺した私は隆の手を取り、
そっと身体を引き上げてはベッドの隣へと座らせた。
「お姉ちゃんは…… べ、別にどこにも行かないよ?」
「…………でもっ」
「そ、そりゃ可愛いとか綺麗とか言われたら悪い気はしないけど……」
「か、可愛いよ! それにっ すごく綺麗だ!!!」
「やっ…… ばかっ! そうじゃなくてっ……」
隆の私を見る視線が熱い。
真っ直ぐな瞳、嘘偽りない言葉、
幼なじみだからこそ手に取るようにわかるから、
だからこそ余計に私は困ってしまう。
「そ、そうじゃなくて…… お姉ちゃんはいつまでも隆のお姉ちゃんだって事よ?」
「…………夏樹姉ちゃんは…… ずっと夏樹姉ちゃん……」
「うん、だからどこにも…………」
どこにも行かない──その言葉を制止するかのように隆は、
いきなり私を引き寄せたかと思うと、
まるで逃がさないとばかりに私の身体をきつく抱きしめてきた。
「ちょ…… た、隆?」
「やだよ…………」
「え? な、何? 聞こえない……」
「イヤだ! いつまでも姉ちゃんなんて………… 俺は…… イヤだよ……」
幼い子供が駄々を捏ねるように、
今にも泣き出しそうな声でそう呟く隆。
私は驚きのあまり慌てて身体を引き離そうとするも、
太く大きな隆のその両腕は、
簡単には振りほどくことが出来ないほどに、固く背中で握りしめられていた。