伏兵は女王様 <前編>-7
「もちろんその時は私を庇うウソだと思っていました」
「へ? マジで?」
「うん、隆は優しいから…… 私を傷付けまいと思って言ってくれたのだと…………」
「いや、俺…… そんな気の利くヤツじゃねぇよ?」
「うん、でもあれは本当の事だったんだって………… 今日ここへ来て確信が持てた」
「ばっ! だからお前そういう事はっ…………」
慌てた様子で私を見ては、いっそう顔を赤らめる隆。
けれど私は、そんな隆の様子など気にも止めず、
ただただユイの言葉を反芻しては必死で頭の中を整理していた。
ユイはマイノリティな自分を脱却するため隆と付き合ってみたけれど、
想い、温もり、優しさそのすべてを理解したうえで、
それでもなお自分は女の子が好きなのだと自覚したため別れを告げた。
うん、ここまでは私も理解した。
あまりに頭に血が上っていたため、ユイを責めたけれど、
よくよく考えればユイもまた考えた末の結論だったに違いない。
問題は隆だ。
そもそも私は、どこか隆が小馬鹿にされたと感じたから、
隆の純情を踏みにじったユイが許せなかったから、
ああして怒りを露わにしたと言うのに……
──幼い頃からずっと好きな人がいて、その人を忘れたいがために付き合った
もしもそれが本当ならばこの件はどっちもどっち、
そして私のした事は…………
そこまで考えると私は顔をあげ、隆の頭を力一杯げんこつで小突くと、
謝罪の言葉と共にユイに向かって深々と頭を下げた。
「ご、ごめんなさいっ 私っ 早とちりしたみたいで………… その…… 本当にごめんっ!!!」
申し訳無くて恥ずかしくて、私は顔が上げられない。
怒りにまかせて他人に手を上げるなんて、
それもまさかの勘違いだなんて……
「夏樹お姉様? お顔をあげてください」
「…………で、でもっ」
「ユイは叩かれて当然のことをしたのですから………… 姉様が謝る必要は無いのです」
「でもっ それは隆だって同じ………… そもそも私が怒る権利なんてどこにもっ」
赤く腫れたユイの頬を目にするたび胸が痛む。
他人の恋愛に首を突っ込む権利など誰にもないのだ。
たとえそれが親兄弟であろうと、たとえそれが幼なじみであろうとも…………
「権利? 姉様は隆が弄ばれたと感じたからユイを叩いたのでしょう?」
「う、うん…… でもっ それは私の…………」
「もちろん勘違いです………… ユイは誓って隆を弄んでなどいません」
「……………………うん」
「でも…… ユイだって大切な人がそんな目に合ったと知ったら…………」
そう言ってユイはそっと目を閉じ、しばしの間まるで何かを想像していたかと思うと、
ゆっくりと目を開け私に微笑みかけては、ぺろりと舌を出しこう言った。
「私ならきっと、さっきの姉様なんて比にならないくらい激怒しちゃいますから♪」
感情にまかせて頬をひっぱたく以上の激怒って?──なんて事を頭で思いながらも、
私はユイの笑顔につられるように思わず笑ってしまった。