ああ、疲れた-1
ああ、疲れた。
わたしは自分の古くて動作のもっさりしたパソコンの画面を眺めた。そこには旦那の秘蔵エロファイルから抜き出した画像と、結婚式のときに撮っていた写真の中からヨネコさんの顔部分だけを切り取った画像がある。
最初は嫌がらせ犯に便乗して数十件のくだらない中傷コメントを入れた。それが思いのほか効果があったので、書き込みをどんどん増やした。オフ会を我が家でやるのを承諾したのも、何かヨネコさんにダメージを与える方法のヒントがないかを探るためだった。
嫌がらせ文書も、写真も、全部わたしひとりでやった。途中で少しでも自分の悪いところに気がついたなら、その時点でやめるつもりだった。でも違った。ヨネコさんは何も変わっていなかった。ちゃんと「心当たりはないんですか」って親切に聞いてあげたのに。
結婚してすぐ、わたしのお腹に赤ちゃんができた。ヨネコさんのところはふたり子供がいるが、女の子ばかりなので、こっちに先に男の子ができるのが嫌だとグズグズ言ってきた。まだ性別もわからないようなときだった。
「ワタシは何年も子供出来なくて悩んで苦しんだのに、モモちゃんはすぐに赤ちゃんできるなんてずるい!」
そう叫んで、わたしを駅の階段から突き飛ばした。ちょうど混んでいる時間帯で、見ていた人もヨネコさんが突き飛ばしたかどうかまではわからなかったらしい。転げ落ちながら、傍にいたひとたちにガンガンぶつかった。痛いとかいうよりも、恐怖だけが先に立った。
赤ちゃんは助からなかった。
あれ以来、ずっとヨネコさんに仕返しをする機会を狙ってきた。こんな形で叶うとは思わなかったが、これでほんの少しだけ気が晴れた。少なくともこれからしばらくは、ゆっくりとお昼寝ができる。でも、まだ許さない。
来週あたり、ヨネコさんのお見舞いに行こうと思う。ヨネコさんにどんなことをしてあげようか。ああ、楽しみ。
(おわり)