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【サスペンス 推理小説】

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エスカレートする嫌がらせ-5

 その翌朝9時過ぎ、ヨネコさんは震えながら我が家の玄関で立ち尽くしていた。いつものようにずかずか上がり込んでも来ない。

「どうしたんですか? いつもより時間早いし……」

「こんな……こんなものが……」

 ヨネコさんの手からバラバラと写真のようなものが何十枚もこぼれ落ちた。それはちょっと大変な場面を撮った写真で、よくわたしに見せる気になったなあと思うようなシロモノだった。

 ヨネコさんが男性のペニスを咥えて笑っている写真。オールヌードで股を広げている写真。裸の男性の上に乗っかって腰を振っている写真。後ろからペニスを突っ込まれて泣き顔になっている写真。そのすべてに『綾小路可憐・村山米子は淫乱ババア』と印刷されている。村山米子はヨネコさんの本名で、写真の顔はたしかに全部ヨネコさんだが、良く見れば体は別人で意図的にコラージュして作られた写真であることがすぐわかる。

「だ、誰なの、ほんとに誰なの……こんなの、もし旦那に誤解されたらシャレにならないじゃない……」

「ヨネコさん、落ち着いて。警察行きましょう、警察。ね?」

 玄関で泣き崩れるヨネコさんの手を引っ張ると、ヨネコさんは子供のようにイヤイヤと首を横に振った。

「だめよ、警察なんか行けない……モモちゃん、知ってるくせに」

「ああ、でも」

「もうどうしたらいいの……こんなのバラまかれたら近所も歩けなくなるわ……」

 警察に行けない、というのは確かに理由がある。ヨネコさんは結婚当初からのストレスか何かで、あちこちのスーパーで万引きのようなことを重ねていた。『バレなければ何をやってもいい』というのが信条らしく、わたしにもその盗んできたお菓子や洗剤を自慢げに見せてきたことが何度かあった。一度、とうとう警備員に万引きが見つかって、何故かわたしがヨネコさんを引き取りに行くはめになり、一緒に平謝りに謝った。

 そのときは店長の配慮でお金を払うことで警察沙汰は免れている。ただその後も病気のようなもので、ヨネコさんはちょこちょこそういうことを繰り返しているらしい。警察であれこれ聞かれるうちに、万が一そのことが発覚したら嫌だという心理はよくわかる。


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