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【サスペンス 推理小説】

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嫌がらせ-3

「し、嫉妬?」

 ヨネコさんの『作品』を全部読んだわけではないが、読め読めとうるさいので何作かはざっと目を通した。でも嫉妬されるほど上手かといわれると、ちょっと首をひねってしまう。読みにくく、内容がわかり辛い。単にわたしの読解力が無いだけかもしれないが。

 絶対犯人を見つけ出してやる、とパソコンをカチャカチャやりながら息巻くヨネコさん。勝手にすればいいけど、できたら自宅でやっていただきたい。その気持ちをぐっと飲みこんで、愛媛の叔母さんから届いたみかんジュースをコップに注いだ。ヨネコさんはそれを3杯もおかわりして、

「あー、やっぱり果汁100%のジュースって美味しいわよね、スーパーで売っているのとは違うわあ」

 と、ガハガハ笑った。前歯に挟まったオレンジ色のカスが、ヨネコさんの下品さにさらに拍車をかけていた。

 翌日も、その翌日も、ヨネコさんはパソコンを抱えてやってきた。嫌がらせはどんどんエスカレートし、コメント数の上限いっぱいまで全ての作品に悪口雑言が書きこまれたらしい。オフ会の日から2週間が過ぎる頃には、見た目にもわかるほどげっそりとやつれてきていた。

「ヨネコさん、大丈夫ですか? ちゃんとご飯食べてます?」

「うん……あんまり食欲ないんだよねえ。夜もね、寝ようと思うんだけど、変なコメントがまたついてるんじゃないかなって思うと気になって、パソコン開いて……その繰り返しよ」

 食欲がない割には、我が家に来たときのお菓子や昼食はいつも通り食べている。今日も実家から届いた桃を2つぺろりと食べてしまったくせに。でも表情に余裕が無く、目の下にはどす黒いクマができている。落ち込んでいるのは本当らしい。

「小説のお仲間さんに相談してみたらどうですか? 何かわかるかもしれないし。わたしじゃ、なにも力になれないし」

「あの子たちにも相談はしているわよ。でもね、みんな関わりたくないみたいで『放っておけばいい』しか言わないの」

「ふうん……ちょっと冷たいですね」

「でしょ!? モモちゃんもそう思うわよね!? ほんとに友達がいが無いったら……」

 またパソコンを開いて、嫌がらせにため息をつく。それでもパソコンから離れるとか、そのサイトを辞めるとかいう選択肢はヨネコさんには無いらしい。最初は小説を投稿して感想をもらえることが素直に嬉しいだけだったけど、最近ではそこで知り合った仲間とのやりとりが何よりも楽しかった、とヨネコさんがつぶやいた。

「だって、結婚してお金もないし、子育てで時間の自由もきかないし、ワタシこんな年だからママ友たちとも話が合わないし、旦那も仕事ばっかりでワタシのことなんか興味ないみたいだし……寂しかったんだぁ。でもこのサイト見つけてからは、みんなが相手してくれて、お話を投稿したら誉めてもらえて……だから、この場所をなくしたくないんだよぉ。モモちゃんならわかってくれるよね?」


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