嫌がらせ-2
その日を境に、ヨネコさんは毎朝我が家に訪ねて来るようになった。お菓子をたかりにではなく、日々ひどくなる嫌がらせの愚痴を言いに。
「これ、ちょっとひどくない? コメントだけじゃなくて、メッセージも掲示板も、このサイトのいろんなところにワタシの悪口がいっぱい……」
ほらほら、と画面を立ち上げてはわたしに見せてくる。表示されたページには『綾小路可憐はブスで根性悪のババア』『綾小路可憐は陰で友達の悪口を言いまくっている』『こんなやつの小説は読む気がしない』と、誹謗中傷というか、レベルの低い悪口が書き散らされていた。さすがに新たな作品を投稿する気にはなれないらしいが、過去に投稿した作品まで散々こきおろすようなコメントが山のようについているという。
「えー、でも画面の中のことなんだし、前も言いましたけどしばらくログインしなきゃいいじゃないですか」
「そりゃそうだけど、こういうのって気分悪いじゃない。だいたい何でワタシばっかり? いままでは他の子たちもだいたい同じような感じでこういうの入ってたのに、急にワタシだけひどくなるなんておかしくない?」
「はあ」
「もう、ちゃんと話聞いてる!? ねえ、モモちゃん、このままじゃ悔しいじゃない。犯人を見つけたいって思うでしょ!?」
「はあ」
「でもね、非会員のコメントだから誰が書いたんだかわからないしなあ……」
「ちょっと待ってください」
画面をスクロールさせていくヨネコさんの手を止め、少し画面を戻してひとつのコメントを指さしてみる。
「このコメントって、書けるひと限られませんか?『綾小路可憐はゾウリムシ柄の趣味の悪いブラウスが好き』って」
「ゾウリムシ柄……あ、あのペイズリー柄のこと!?」
ヨネコさんはオフ会の日、赤を基調にした今どき何処に行けば買えるのかわからないようなペイズリー柄のブラウスを着ていた。
「え、ええっ、じゃあ、まさかあの子たちのなかに犯人が?」
「いや、わかりませんよ。洋服の話なんて、ほら、オフ会に来てないひとにも誰かが世間話っぽく聞かせたかもしれないし」
「そうかあ……そうねえ……」
でもどうしてワタシだけワタシだけ、とヨネコさんは何度も繰り返した。ようするに嫌がらせを受けること自体よりも、自分だけ嫌がらせを受けているのが気に入らないらしい。
「だいたいね、ここだけの話だけどワタシの小説があのサイトの中では一番上手だと思うのよ。だから、ワタシのことを嫉妬した誰かがひどい嫌がらせをしてるのかも」