『The girl & boy』-1
「君は、僕と心中する気はないか?」
「・・・何だって?」
と聞き直そうと思って、でもやめた。彼を一目見て、その必要が無いことが分かったからだ。
彼の考えていることは、彼の言葉そのままであり、彼は私に真剣に、言葉通りの率直な意味で、自分と心中しないか、と聞いてきたのだった。
投げっ放しの言葉、深く俯いたままの彼は、答えを急かす訳でも、こちらの反応を窺う訳でも無く、沈黙の中で時は過ぎていくばかり。
私は、彼から少し離れた所でぼんやりと立ち尽くしていた。
場所は家の中、私は食事を終え、黙々と自分の仕事である皿洗いをしていた。
そしてその思わぬ言葉に手を止め、そのままぽつんと突っ立っていた。
何故だろう。
今思うと、少し遠近の具合がおかしかった。
色彩も、あまりにもぼんやりとしすぎていた。
でも、私にはそんな事は全く気にならなかった。
一体あの男が何事かと。
直接襲い掛かる、痛々しいまでの彼の感情の起伏。
私は真面目に胸を詰まらせ、真剣に驚いていた。
切迫する、その哀しさ、遣る瀬なさ、同情は愛情の始まりだと言ったのは、一体誰だったか。
「・・・君、」
一人孤独に思い詰め、限界を知り。
切迫する、その哀しさ、遣る瀬なさ、しかし、同情と愛情は違うと言ったのは、一体誰だったか。
「・・・ねえ、」
本性を巧妙に別色で彩り、真実も誤魔化しも、大切な事は何一つ曝さなかった、人には何も教えなかった、器用に精巧に、一人で何でもやってのけていた。
本当は私は、彼の仕組みも言葉も、理想も企みも、本当の事は欠片だって知らない、どれだけ巧みな策略を用いて私が知ろうとしても、それらはいつもひょいとどこかへ隠されてしまった。