夜会に出席 *性描写あり-6
「……では、私は残り、そのバイアルドという男をお調べいたします」
馬車にカテリナとルーファスを乗り込ませ、リドが一礼する。
「思い違いかもしれません……あの方は、私と初対面のような口ぶりでしたし……」
おずおずと言ってみたが、リドは予定を変える気はないらしい。
「それならそれで、ようございます。私は己の職務を果たすのみです。ご心配なさりませんよう」
いつもながら、それ以上断固として口を挟ませず、馬車を送り出す。
帰りの馬車は、なんとなく重苦しい雰囲気に包まれていた。
ルーファスは、ずっと難しい顔で黙っている。
「申し訳ありません……勝手に抜け出したりなどして……」
沈黙に耐え切れず、そっと謝罪すると、ルーファスは少し驚いたように顔をあげた。
「そんな事を咎める気はない」
「え?」
「……いや。別に、怒ったりなどしていないから、安心してくれ」
だが、ルーファスはすぐに先ほど以上に難しい顔になり、窓の外へ顔を背けてしまった。
夜空は晴れ渡り、美しい星空だったが、馬車のわだちの音だけが聞こえる中、ひどくつまらない光景に見えた。
城に帰ると、遅い時間なのにクレオは玄関で待っていてくれた。
しかしルーファスは、固い顔のまま使用人たちを全員下がらせ、カテリナの手を掴んで歩き出す。
「ルーファスさま……?」
抜け出した事を怒っているのでないなら、なぜそんなに怖い顔をしているのか、まるでわからない。
しかも、連れて行かれた先はルーファスの寝室だった。
有無を言わせずに連れ込まれ、窓から月光だけが差し込む暗い部屋の中、強く抱きすくめられた。
「ルー……んっ!?」
先日よりも性急に、乱暴にさえ思えるほど、唇を貪られる。
「んっ、ん、ん、ふ……ぅ……」
滑り込んできた舌に口内をかき回され、自身の舌をきつく吸い上げられ、あふれた唾液が口はしから垂れていく。
息苦しいのに、甘い感覚が体内に流れ込んで、脳髄をしびれさせ、背骨を砕いていく。
ようやく開放された時には、自力で立っていられないほどだった。
抱きかかえられるように、ルーファスの胸にすがってしまう。
「そろそろ、この間の答えを聞かせてくれる気になったか?」
「ふぁ……ぁ?」
「どうして知った顔なんか……身元なんて、わからないままでいい……」
低い声は、どうしようもない苦しさに耐えているようで、ルーファスの顔が歪む。
迷ったが、萎えてしまいそうな気力を振り絞って、ずっと考えていた事を口にした。
「きっと……ルーファスさまは、私がもの珍しいだけなのです」
舞踏会で囁かれていた噂に、小さく胸が痛んだものの、もっともだと思った。
貧しい身なりなのに、なぜか高等教育を受けていた、記憶喪失の奇妙な娘。
美しい姫たちを見飽きているルーファスにとっては、新鮮にうつっているだけだろう。
冷静になれば、周囲が言うように、身元の確かな上流階級の娘を娶るのが、ルーファスのためなのだ。
「リドにも同じ事を言われた。俺はそうとう信用がないらしいな」
彼の声は静かだったが、危険なほど低く、剣呑な色を帯びていた。
「手に入れれば、俺はカテリナにすぐ飽きると思うわけだ?」
「……そう思います」
怖くてたまらないし、それ以上に悲しくて辛い感情がせりあがり、溢れ出そうになる涙を、必死に堪えた。
いずれ飽きられてしまうだろうに、日ごとにルーファスへ惹かれていく。
それが、どうしようもなく辛かった。