夜会に出席 *性描写あり-4
城下町の閑静な高級住宅地には、貴族達の別荘が連なっている。
日ごろは王都の賑やかさを楽しみつつも、時には喧騒から離れたいと、この和やかな領地に癒しをもとめる特権階級は多かった。
馬車はその一軒に止まり、正装をしたルーファスにエスコートされ、豪華なホールへ足を踏み入れた。
特に裕福な貴族が主催しているだけあり、目もくらむような華やかな宴だった。
どのシャンデリアにも、お抱え錬金術師が魔法灯火を輝かせ、大輪のかぐわしいバラがそこかしこに飾られている。
いくつもある丸テーブルには、大陸中からとりよせた珍味が、はるか東の島国の陶器へ美しく盛り付けられ、客達の舌を満足させていた。
女性客たちも、こぞって新調した互いのドレスを評価しあっている。
絹・レース・金銀宝石・毛皮……考え付くかぎりの材料でしつらえられた衣装をまとった姫たちは、華やかな蝶の群れのようだった。
クレオの表現は、決して大袈裟ではなかったと、すぐに思い知る羽目になった。
ホールに入った瞬間、目ざとくルーファスを見つけた女性たちが、どっと押し寄せてきたからだ。
「ランベルティーニ公爵さま!お久しぶりでございまぁすv」
「ルーファスさまぁ!私の誕生パーティーにも、ぜひいらっしゃってくださいvv」
押し寄せるドレスを着た蝶たちにはばまれ、主賓に挨拶することすらままならない。
守るどころか、あっという間にルーファスの横から弾き飛ばされそうになった。
さりげなく伸びたルーファスの手に、しっかり腰を抱えられなければ、5秒ともたなかっただろう。
「こんばんは。こんなに美しい姫君たちを招待できるとは、ここの御主人は国一番の果報者ですね」
極上の笑みを浮べ、ルーファスは姫たちに会釈する。
「それでは、果報者の主人に、当家に滞在しておられる姫君をご紹介する約束ですので」
一瞬、姫たちの視線はカテリナに釘付けになり、動きがとまる。
「ひとまず失礼させていただきます」
そしてルーファスは、カテリナをほとんど抱きかかえるようにして、その場からさっさと離れた。
「まぁ、あの方が例の?」
「神さまからいただいたって、本当かしら?」
「まさか。公爵様もモノ珍しくて気に入っておられるだけよ」
呆然と見送った姫たちが、背後でひそひそ噂話をしているのが聞えた。
「クレオの言う通り、カテリナに守ってもらってしまったな」
小声で囁き、ルーファスが苦笑した。
どうやら出掛けの激励は、しっかり聞えていたらしい。
「私……何もできなかったようですが……」
「いつもなら、もっとしつこく追われる。皆、カテリナの話に夢中になっているから、今日はあっさりしたものだ」
「そうですか……」
「すまない。居心地が悪いかもしれないが、パーティーの間だけ我慢してくれ」
「いえ。お役に立てたのでしたら、嬉しいです」
ちょっと話の種にされるくらいでルーファスの役に立てるなら、全然かまわない。
自然と顔がほころんだ。
ルーファスは一瞬、カテリナの顔をまじまじと見つめ、困ったような顔をして目をそらした。
「……紹介するのを止めたくなるな」
「え!?」
何か、無礼な事をしてしまったのだろうかと思い慌てたが、続けて耳元に囁かれた言葉に、鼓動が跳ね上がる。
「そんな魅力的な笑顔は、俺だけが独占したい」