悪しき者に、断罪を-2
しかし、昼食はその通りにはならなかった。
クレオが出て行ってしばらくすると、扉がノックされ、返事をする前に勢いよく開いた。
「フィオレッラさま……」
荒れているどころか、上機嫌の笑みを浮べたフィオレッラが、一人で立っていた。
「私、貴女の事を誤解してたみたい!」
ずかずか部屋に踏み込み、カテリナの手を握ってブンブンふる。
「ルーファスって、すごく人気あるでしょ?だから貴女もルーファスを狙ってるって思い込んじゃったの」
強く握られた手は痛いほどだったが、フィオレッラからこんなに友好的な態度を示されたのは初めてだった。
朝食に出なかった事で、気をよくしてくれたのだろうか?
「行く当てがないからここにいるだけで、別にルーファスを好きじゃないのよね?」
「え、ええ……」
また心がズキリと痛んだが、我慢した。
「仲直りに、お昼は庭でお弁当を食べない?ルーファスったら、仕事だって言って出かけちゃったのよ」
フィオレッラは紅を塗った唇を尖らせる。
「私は小さい時からルーによく遊んで貰ったから、この城に詳しいのよ。私の秘密の場所を教えてあげるわ!」
「宜しいのですか?」
「もちろんよ。ルーファスのお客様は、私のお客さまと同じだもの」
ニィっと、毒々しい色の唇が左右の上側につりあがった。
「早く行きましょ?ね?」
城の庭園は、呆れるほどに広い。
カテリナが流れてきた川も、一部が敷地内を流れ、美しい花壇や果樹園、小さな森まである。
あちこちに東屋や園丁用の小屋が置かれ、庭師たちが忙しく仕事をしていた。
メイドに作らせたというお弁当のバスケットを渡され、フィオレッラについて歩く。
「あそこの東屋で、よくルーファスと一緒にオヤツを食べたのよ。それからあの木の下で……」
フィオレッラの話は全て、彼女とルーファスの思い出話だったが、ルーファスの子ども時代の話など滅多に聞けないから、それなりに楽しかった。
「ここよ」
しばらくしてついたのは、裏庭の小屋だった。
どうやらこの辺りは、今はあまり使っていないらしい。
回りの花壇にも花が植わっておらず、園丁達の姿も見えない。
「素敵でしょ?」
「ええ」
古い小屋でも、思い出の場所なら、フィオレッラにとっては特別にうつるのだろう。
カテリナは頷く。
「ここなら、煩い事言う人に、誰にも見つからないのよ。さ、入って」
促され、カテリナはさび付いた取っ手を握って押す。
力を込めると、きしんだ音を立てて扉が開いた。
「っ!?」
内側から手首を掴まれて強く引かれ、そのままカテリナの身体は小屋の中に倒れこんだ。
バタン!と扉が閉められる。
「フィオレッラさ……っぐ!?」
大きな手に口をふさがれた。更に何本も伸びてきた手に四肢を押さえられ、床に貼り付けられる。
小屋の中には、数人の男たちがいた。
鎧こそ脱いでいたが、彼らには見覚えがある。フィオレッラの護衛騎士たちだ。
「アハハハ!!!バッカみたい!」
小さな小窓から覗き込んだフィオレッラが、せせら笑う。
「アンタと仲良くするなんて、虫唾が走るわ!」
「ぅーーっ!?」
口を塞がれているでいで、くぐもった悲鳴しか上がらない。
「記憶喪失のふりした図々しい嘘つきのクセに。天使なんて言われていい気になって!気持ち悪いのよ!!」
汚れた窓の額縁の中で、嫉妬に顔を歪めた少女姫は、毒を吐き続ける。
「本当に天使なら、この男達を慰めてあげてよ。お優しいアンタならできるでしょ?アハハハ!!」
そして、騎士達に命令を吐き捨てた。
「二度とこの城に戻れないくらい辱めてやりなさい。この窓を閉めちゃえば、声も聞えないから、うんといたぶって楽しめばいいわ」
「んーーーーっ!!」
無情にも小窓はピシャリと閉められ、口を押さえていた手だけが外された。