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数ミリでも近くに
【大人 恋愛小説】

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尾行-1

「へぇー、本当に同じポスターだなぁ」
 葉子の部屋に入って来てすぐ、目についたそのポスターを見た。
「女の部屋の匂いがする」
「きもいんですけど」
 掃出し窓を背に、部屋を見渡す。
「俺の部屋よか少し広いんだな」
 晴人の隣に葉子が立ち、手を広げる。
「広いんだけどね、ピアノが場所とるし。そのうちギターの騒音も聞こえてくると思うよ」
 晴人はギターに目を移した。
「パンク好きなのに、テネシーローズか。何か、可笑しいな」
「ギター好きとパンク好きは関係ない。ただ単にギターが好きなの」
「何か弾いてよ」と言われたが、葉子は首を横に振って断った。
 ずっとピアノを習っていた。ある事を切っ掛けにパンクロックにのめり込み、ギターに興味がわいた。
 ちょっとした興味でギターを買いに行き、楽器屋に並ぶギターの中で一目惚れしてしまったのが、グレッチのテネシーローズだった。ローンを組んで買った。
 それからは独学でギターを学んでいるが、改まって人に聞かせられるレベルではないと思っている。
「晴人は楽器やらないの?」
「俺は聴くのと暴れるのが専門だな」
 葉子は掃出し窓から外を見た。レースのカーテン越しに、ある人物が立っているのが見えた。
「まただ――」
 葉子の視線の先にいる、顔の整った青年を、晴人は視認した。
「誰?」
「会社のストーカー君」
 あまりに軽い感覚で葉子の口から出た「ストーカー」と言う言葉に、罪の重さが感じられなかった。
 ストーカー君である中村君と葉子は同期入社で、研究所が違うが時々呑みに行ったりする仲だった。
 ある日彼から「好きだ」と告げられたが、葉子は「友達としてしか見れないから」と断った。
 しかし、葉子には彼氏がいない事を中村君は知っていて、諦めずアタックをし続けている。
 時々こうやって休みの日に家の前まで来て、葉子が一人で外に出てくるのを待っている。
 以前は呼び鈴まで鳴らしてきたが、ここはシェアハウスで自分以外の人間も住んでいるから、こういう事はやめてくれと頼んだのだ。
 根は悪い奴ではない中村君。
 それからは呼び鈴は鳴らさないが、敷地の外で葉子の「出待ち」をするようになった。
「彼、カッコイイじゃん、何がダメなの?」
 カーテン越しに見える彼を見て晴人はそう言ったが、葉子は首を振った。
「だって、アイドルとか、J−POPにしか興味が無いような人と、プライベートで気が合う訳ないじゃん」
 ブッと晴人は吹き出して笑った。
「パンクばっか聴いてる研究員見つける方が至難の業だぞ」
「だって一緒にライブとか行きたいじゃん」
 口を尖らせて言った。その言草がまるで駄々をこねる子供の様で、「お前、かわいいな」と何ともなしに言った。
 その言葉で葉子は顔を真っ赤にして、グーにした手を晴人の腕にガンと打ち付けた。
「バカにしてんだろ、帰れ、自分の部屋に帰れー」
「なぁ、あのストーカー君の家、知ってるのか?」
 俺に良い案がある、と策士の様な顔で晴人がある提案をしてきた。




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